マイケル・ポーター教授の授業「Microeconomics of Competitiveness」がはじまりました。
生ぽた(生のポーターのこと)は、思ったより白かったです。
肌も真っ白いし、髪の毛も白い。
でも、生ぽたを見て高まった僕のミーハー心も、授業開始とともに瞬間冷却。
最初のコールドコールは地獄のようでした。
コールドコールにあたったのは、インド人のS。
ケースは、フィンランドがいかにして世界最強のテレコム・クラスターを築いたか、というものだったのですが、
なんでフィンランドが成功したかを問いかけ、
インド人Sが一言答えるたびに、「なんで君はそう思うのか?その現象を生み出した要因はなにか?」と更問いをがんがん投げてきます。
まるでトヨタ生産方式で出てくる「5 Whys」(なぜある現象が起こったのかを徹底的に詰めることで、本質的な要因に迫る)のようです。
これは、相当入念に予習をしていかないと死ぬ。。。と思いましたぶつ。
* * *
授業前に、ポーター教授の教典(「On Competition」)を100ページ以上読まされたのですが、
今後頻出するであろうフレームワークが書いてあったので、備忘録的に整理しておくことにします。
(※ 本当はフィンランドのケースと絡めて書きたいのですが、あまり授業の内容をそのまま書くと、学校側から強烈な焼きを食らう、という噂を聞きつけたため、今回はやめておきます。)
まず、国のゴールは、国民が豊かに暮らしていけるようにすること、すなわち”Standard of living”を上げること、とします。
国民が豊かに暮らしていくわけには、富を生み出さなければいけないわけで、そのためには、その国にある産業の生産性(Productivity)を上げることが鍵だとのことです。
効率的に豊かになっていくには、限られたリソース(人、モノ、金)を、生産性の高い分野に投入しないといけない。
そして、産業が高い生産性をもつようになれば、人々に支払われる給与の水準も上がるし、資本に対するリターンも上がるし、その他の国の中にある資源1単位当たりで生み出される富も上がっていく。
そうすると、みんなが豊かになれる。
では、どうやったら、産業の生産性が上がっていくのか?
ある国の中で、なんらかの産業が起こり、生産性をあげていくには、以下の4つのファクターが大事だ、としています。
(まとめて「ダイヤモンド・フレームワーク」という大層な呼び名がついています。)
1: Factor (input) conditions
2: Demand conditions
3: Context for firm strategy and rivalry
4: Related and supporting industries
“Factor (input) conditions”とは、企業活動に必要なインプット(人的・物的資源)がちゃんとしているか、ということです。
例えば、教育水準は高いか、ビジネスが十分にできるくらいのインフラ(電力や道路など)があるか、銀行がちゃんとあって起業家がお金にアクセスできるか、ビジネス契約を履行させるシステム(裁判所など)があるか、天然資源はあるか、あるいはマクロ環境は安定しているか(例えば強烈なインフレ下じゃビジネスはやりづらい)、などなど。
まあ、当たり前の話ですな。
“Demand conditions”とは、国の中に、産業が生み出す製品に対する需要があるか、ということです。
輸出主導の産業とはいえ、その産業が起こる過程では、地元にちゃんとしたお客さんがいないと、その産業は発展しない、とのことです。
やはり、お客さんのニーズをきめ細かく聞いて、いい製品を作るには、お客さんが近くにいないとってことですか。
そういわれると、「国内に需要が必要なんだったら、人口の少ない国はどうするんだよ!」と反論したくなりますが、
大事なのは、需要の規模ではなく、需要のクオリティーとのことです。
例えば、フィンランドは、小さな国ですが、そこでテレコム産業(特にノキア)が強くなったのは、
北欧は携帯電話の普及が早いし、ローミング(国境を越えた通話)へのニーズもあったので、お客さんの要求レベルが高かった。
だから、テレコム企業はお客を満足させるには、技術革新に力を入れるしかなく、技術の差別化によって、テレコム産業の競争力が上がったそうです。
“Context for firm strategy and rivalry”
これは、平たくいっちゃうと、いかに地元で激しい競争が起こるか。
地元で激しい競争なんかが起こっちゃうと、つぶしあいで産業がしぼんでいきそうですが、
いろんな国の事例を見ると、決してそんなことはなくて、
むしろ、競争があることで、企業は、イノベーションやコスト削減に向けての努力をして、結果的に生産性を上げ、競争力を持つようになるとのこと。
ポーター教授にいわせると、発展途上の産業を、政府が補助金や関税を使って保護すべき、みたいな古典的な産業政策は、まったく意味がないとのことです。ふむう。。。
まあ、競争が産業を強くする、というのは、わからなくはない話です。
例えば、九州で空手が盛んなのは、いろんな強い学校が集積していて”Peer pressure”があるし、各学校の生徒や監督さんたちが強くなるための最新のトレーニング方法や作戦について情報交換できるからなのかもしれません。
いずれにせよ、プレッシャーをかけられたときの、人間の適応力やイノベーションを起こす力をなめたらいかんぜよ、ってことすか。
最後が、”Related and supporting industries”。
産業が勃興してくると、その産業のサプライヤーや関連産業も同時に形成されてくることが多い。
たしかに、トヨタの回りには、自動車部品メーカーが集積して、企業城下町みたいになってるもんね。
で、企業城下町ができてくると、周りの大学も関連の研究に力を入れるようになるし(なぜなら卒業生を地元の強い会社に送り込みたいから)、地元商品を輸出したり他の地域に売り込むための産業団体(商工会議所みたいな)ができてきます。
こうやってできてくる企業、研究機関、産業団体などの集積を「クラスター」と呼びます。
産業や企業の生産性と競争力が上がるには、企業が単独でいるよりも、いろんな企業が集まっていたほうがいい。
たしかに自分の近くにサプライヤーがいたほうが、just in timeで原材料を仕入れることができて、楽ですよね。
あるいは、サプライヤーと一緒に共同で研究をして、もっといい原材料を作ることもできるかもしれない。
また、産業が集積していると、ブランド形成にもいいかもしれません。
「米どころ福井!」と言われるのは、福井にはたくさん米農家があるからかもしれませんよ(ちょっと違うか。。。)
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おそらく、この「ダイヤモンド・フレームワーク」を使いまくって、これからいろんな国のケースを見つつ、クラスターの競争力向上のために、政府や民間は何をすべきか、ということを考えていくことになるのでしょう。
次のエントリーで、「ダイヤモンド・フレームワーク」を使った経済発展事例として、福井の織物クラスターについて書いてみたいと思います。