昼下がりの迷宮～

　　　白洲家としきたり

今も残る伝統習慣の由来を、四季折々の美しい写真と共に紹介。
解説するのは、日本の伝統文化の普及に努めている文筆家の白洲信哉氏。
吉田茂元首相の懐刀として日本国憲法の立案に尽力した白洲次郎氏と、その妻で随筆家の正子氏を父方の祖父母に、文芸評論家の小林秀雄氏を母方の祖父に持つ著者だからこそ語ることのできる、知られざるエピソードも満載。
次郎、正子夫妻の「葬式無用、戒名不用」の真意とは─。形骸化しつつある日本人の「心のかたち」を問い直します。（「BOOK」データベースより）


数日前、聞いていたラジオ番組で、パーソナリティのクリス智子さんがインタビューしていたのが白洲信哉さんでした。
ちょうどその日は節分。
節分といえば豆まき、と日本の誰もが連想するその行事ですが、地方あるいは家によっては習わしが違うこと、
たとえば、氏ご自身の家も、＜九鬼家＞の流れをくむため、鬼が守り神でもあるそうで「福は内、鬼は内」と唱えたという例などを、重厚感ある語り口で話しておられました。


＜しきたり＞というと、形骸的ともいえる「形」にこだわるもの、と考えてしまいますが、この本を読むと違うということがわかります。
全篇、書かれているのは、昔から日本に伝わる伝統的な習わしの数々ですが、歴史的な背景や所以が、箱から溢れでてくるかのように説明されています。
それによって、周囲がそうであるからと、流れにのって形ばかりを整えることがいかに浅はかであるかが感じられるようになります。

例をとると、正月の松飾りの意味。
これを知ると、飾ることの大切さが理解できるとともに、
庭で育てた木の枝でも、小さな飾りでも、工夫してよいのだということがわかり、
一方、形を整えようと、プラスチック製の門松を置くことの無意味さも知らされのです。

ですから、雑学本というのとは違います。
ただ解説を洒脱に羅列している本ではないのです。
ひとつ、ぶれない価値観というか、尺度、あるいは美意識、信念のようなものが貫かれているのを感じずにはいられません。


新書版で1155円、というのはちょっとお高いようですが、中をご覧になれば、これは納得のお値段になると思います。
実に美しい、写真の数々！

富士山や、梅、桜、新緑の山々といった風景はもちろん、菖蒲湯や柚子湯を用意したおしゃれなお風呂――ひょっとしてこれはご自宅か!?――、折々の料理、しつらえなど。
被写体も、ショットも、大変贅沢な美しさなのよ。
新書にしておくのが勿体無いくらい。