再生可能エネルギー先進国ドイツで、ついに太陽光発電バブル崩壊を象徴する出来
事が起こった。一時は、世界最大の太陽電池メーカーとして名を挙げ、フランクフル
ト株式市場の寵児として世界中の投資家から資金を集めたQセルズ社(
写真上)が、
ついに破綻したのだ。
◎かつて世界一のシェアを取ったQセルズ社だったが
2日、同社は法的手続きを申請すると発表、3日にはドイツ国内の裁判所で手続き
が始まる。同社が3月末に発表した11年12月期決算は、最終損益が8億4600
万ユーロ(約920億円)もの大赤字であった。
1999年に細々と太陽電池製造を始めた同社が、日本のシャープや三洋(現パナ
ソニック)、京セラといった日本勢の独壇場だった太陽電池主要メーカーに割り込み
、一躍、世界シェアトップに躍り出たのは、2008年だった。ドイツ政府の再生可
能エネルギー発電の固定価格買い取り制の恩恵をフルに享受したが、その天下はあま
りにも短かった。
Qセルズの破綻は、福島第1原発事故後にやはりバブル人気化している日本の太陽
光発電ブームにとって1つの警鐘になると思うので、本日はその原因を考察してみよ
う。
◎太陽電池は実はローテク、そのため1年足らずで価格は半減
一般の人は、太陽電池というと先進技術の塊と思う方もいるかもしれないが、今で
は半導体や液晶パネル以上に「コモデティー化」したローテク技術になっている。一
般に使用されるシリコンは、半導体より高純度を要求されない。そのため半導体や液
晶以上に、コモデティー化しやすい。そこそこの資本力のある所なら、太陽電池製造
メーカーから装置を買ってきさえすれば、関連技術を持たなくても簡単に太陽電池の
製造メーカーになれる。
そのため、安い人件費に物を言わせた中国企業が相次いで太陽電池製造を始めると
、たちまちQセルズ社の収益は悪化した。採った対策は、ドイツの製造拠点を閉鎖し
、マレーシアに生産移転するという手だったが、それでも業績の急降下は止められな
かった。
中国企業の大挙しての参入で、コモデティー化したために半導体と液晶パネルと同
様に、太陽電池にも価格急落が起こった。Qセルズ社によると、昨年1~9月期のわ
ずか9カ月間で太陽電池システムの価格は半減したという。
◎昨年9月はアメリカのソリンドラ社も倒産
いかに太陽電池パネルが供給過剰に陥っているかは、昨年9月6日に破綻したアメ
リカの太陽電池製造ベンチャー「ソリンドラ」社(
写真中央)が象徴的である。ソリ
ンドラ社は、オバマ大統領が、地球温暖化対策の鍵として打ち出した「グリーン・ニ
ューディール」政策の寵児としてもてはやされ、オバマ大統領自身も同社工場を訪問
して政策をアピールした。それが、あえなくチャプターイレブン(日本の会社更生法
に相当)申請、であった。
同社の本社があるカリフォルニア州は、太陽光発電に注力し、また晴天率の高さか
ら恩恵を受けるはずだったが、実際に市場を制圧したのは、価格競争を仕掛けた安価
な中国メーカーだった。
実は、Qセルズに先立って、ドイツでは昨年12月にソロン社、今年3月にソーラ
ーハイブリッド社といった太陽光発電システムメーカーが法的整理に追い込まれてい
た。欧米主要メーカーで何とか生き残っているのは、アメリカのファーストソーラー
社だけだが、ここもリストラに次ぐリストラで青息吐息、である。
◎価格競争でデスマッチ仕掛ける中国メーカー
では、中国メーカーが儲かっているのかと言うと、さにあらず。今や世界一の太陽
電池メーカーにのし上がった中国のサンテックパワーも、2位のトリナ・ソーラーも
赤字だ。したがって中国の太陽電池メーカー上位5社の11年4月~12月期はすべ
て営業赤字、である。価格競争を仕掛け、自らが出血しながらも、先進国メーカーが
倒れるのを待つデスマッチを仕掛けているのである。
つまり日本がメガソーラー展開に注力しても、採用されるのは中国メーカーだけ、
となる可能性が大、である。これで、本当に「国産エネルギー」と言えるのか、大い
に疑問だ。
◎誰でも儲かる高額買い取り制度、しかし家庭の負担は大
Qセルズ社の倒産が示したもう1つの教訓は、政策リスク、である。ローテク技術
で価格競争に巻き込まれやすい以上に、Qセルズなどドイツの太陽電池メーカーを苦
しめたのは、ドイツ、スペインという欧州の2大太陽光発電注力国が、相次いで買い
取り価格を引き下げたことがある。
数年前までは、広い原野さえ持っていれば、銀行から金を借りて太陽電池パネルを
敷き詰めるメガソーラーを造れば、誰でも儲かった。何しろ電力会社は、日本がやが
て始めるように、太陽電池パネルで発電した電気を無条件で、しかも高額で必ず買い
取ってくれたのだ。そのため太陽光発電の施設も発電量も、毎年、倍々ゲームで急増
した(
下の図)。
むろんこれで発電された電気は、割高だ。電力会社は、倒産しないように、消費者
に「賦課金」の形で価格転嫁することを認められている。これが、固定価格買い取り
制度の根幹だが、そのため家庭の負担額も、また急膨張したのである。ドイツの平均
的家庭では、太陽光発電買い取りのために、年間70ユーロも負担しているという。
金融不安もあって、これでドイツ国民の不満が高まった。
◎発電量はたった3%なのに家庭賦課金の半分を占める太陽光発電
しかも、どちらかというと北欧に属するドイツは、太陽光発電には向いていない。
一般的に、太陽光発電施設の稼働率は12%と言われるが、ドイツははるかに低く1
0%に行かない。
だから施設が増えれば増えるほど、家庭への賦課金が増える構図なのだ。再生可能
エネルギー全体のうち、実際に太陽光発電の占めるのはたった3%でしかない。それ
なのに、家庭に求められ再生可能エネルギー賦課金の半分が、太陽光発電に回されて
いるのだ。
こうなるのも、広く広がるが、密度の薄いエネルギー源である太陽光を使う限り、
非効率となるのも当然である。
かくてさしもの脱原発国ドイツも、バブル退治に乗り出し、固定価格の買い取り価
格を4月から小規模施設で約20%減らすことにした。買い取り価格は、1キロワッ
ト時19.5セント(約21円)になった。メガソーラーになると、規模に応じてだ
が平均25%もの買い取り価格下げ、だ。5月以降も、毎月、価格を下げるし、全量
買い上げをやめ、発電量の85~90%に制限される。
◎歴史に学ばない愚者に指導されて持続的でないエネルギー政策に突き進む日本
Qセルズの破綻は、展望の開けない太陽光発電ビジネスの終焉を先取りしたと言え
る。
ちなみに買い取り価格下げは、金融危機のスペインではもっとドラスチックに行わ
れており、一部に「廃墟」も出来ていると言われる。
ヨーロッパの例は、経済合理主義を無視したイデオロギー的、人為的なエネルギー
政策は持続的でないことを如実に物語っている。
その愚を、わが日本は、これからもう1度繰り返そうというわけだ。
たぶん10年後には、各地で雨後の竹の子のように計画されているメガソーラーは
、ほとんど「遺跡」と化しているのではなかろうか。それは、1970年代の2度の
石油ショック後に起こった太陽光発電ブームが80年代に完全に萎んだ歴史からも、
予測できる。
ちなみに合理主義者のドイツは、再生可能エネルギー大国と言いながら、間もなく
ゼロ原発国となる日本と異なり、まだ国内の原発10数基をちゃっかりと動かしてい
る。また隣国のフランスから、原発で発電した電気を輸入できるし、している。
かつてはボケ菅、今は枝野に駆動されて強引な脱原発国に突き進む日本は、どうす
るのだろうか。歴史に学ばない愚者に、エネルギー政策を委ねる末が恐ろしい。
昨年の今日の日記:「ボケ菅政権の煽る風評被害はかく作られる、牛肉『汚染』でも」