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マックの文弊録

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2010.12.04
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カテゴリ:よもやま話
☆12月4日(土曜日) 旧十月二十九日 戊子 友引:

【物集彦 其の四】
私が注いだ彼専用の温かいビールを一口すすり、Calbeeの「うすしお」の四つ折になって整った一片をティッシュの上から選び出すと、それを丁寧に口に入れ噛締めることで、物集彦は本来の話題からの分岐点に戻ってきた。

彼はコンピュータがビットによって動いている限り、原理的にセキュリティはあり得ないという。つまり、セキュリティも暗号化もファイアウォールも、彼によればそれを彼我で承知した上での共同幻想なのだそうだ。
その上で、彼はWikiLeaksが2007年に公開されたのが大きな転回点だったという。WikiLeaksはそれまでに既に存在していたのだが、その存在は秘匿されていたのだそうだ。それは私も知らなかった。

「何度も云うけれど、現在のコンピュータの内部は1か0なのだ。それを駆動するのも、ファイアウォールも全てビットの世界で行き止まりだ。つまりは所詮人間の作ったものに過ぎない。其処に神の世界も神秘性も、そんなもの有りはしない。
そういう単純な機構の上に、昔はFortranやCOBOL、RPG、今ではBasicやC++などといった人造言語を被せて、ソースコードを作り、それが動かないといってはDebugなんかをしている。其処には独創性などという高邁なものはない。ただ誰かが作った人造語の文法を自分が間違えただけのことだ。Debugというのは、愚か者の尻拭いに過ぎないんだよ。」

私は彼が嘗ては勤め先でも一目置かれる優秀なプログラマーであったことを、それもChip Jockと呼ばれる「IT労働者」ではなく、Hackerと呼ばれて尊敬を集めていた連中の独りであったことを、当時の同僚として知っている。
私は・・・私は並みのエンジニアに過ぎなかった。行列演算処理と、誤差が原理的に累積しないプロッター・ルーチンを開発したことぐらいが私の自慢だったが、そんなものは今の時代とっくに小さなサブルーチンとして「ワイアド」されているので、現役の連中に自慢しようにも、最早話も通じない。
それに較べて彼は様々な魔法のようなルーチンを作り、その大半は優れてエレガントだった。

彼は早くからコンピュータ同士で形成されるネットワークに注目し、幾つものコンピュータを連携させるプログラムを書いていたが、ある時突然それをやめてしまい、以来ITの世界(その頃コンピュータ業界は「IT業界」と名前を変えていた)に対しては皮肉な傍観者を決め込んでいる。何が直接のきっかけになったのかは、彼は私にも黙して語ったことがない。何か哲学的な衝撃があったのか、或いは誰か可愛い女の子が原因だったのか。多分後者のほうが原因である可能性が高いと私は思っている。彼は還暦を過ぎた今でも、「私は町で行き会う女性の6割には恋をしている。」とほざいている。私はこの言葉の出典が夏目漱石であることを知っているが、これは彼には黙っている。武士の情けである。
しかし、彼が元来人に長じて女好きで惚れっぽいことは事実だ。実際・・・・
今度は私の話が逸れかかっている。これの話は又別の機会に披露することにしよう。

さて、温かいビールをグラスから又飲み、一瞬顔をしかめてから(本当は、彼はやはり冷えたビールが好きなんじゃなかろうか?そう私は思う。)、完璧にジャガイモの形を保ったままの「うすしお」を選び出し、慎重に口に運んで彼は云う。
「人の作ったメカニズムの上で、人の作った言語であれこれやっているから、基本的にコンピュータエンジニアはオタクなんだよ。目くそ鼻くその倣いで、小さなことで自分を差別化したがる。WindowsやMacしか使えない連中をポイント・クリッカーといって軽蔑する。プログラムを偽装していろいろな所に紛れ込ませ、防御されたネットワークに潜り込んで楽しむ。他人のパスワードを盗んで他人に成りすましたり、世界中のサーバーを巡り歩いて自らを匿名化することに喜びを見出す。こういうのを『social engineering』というのだが、実際ちょっと気の利いたハッカーなら、事実上素性を隠してどこのコンピュータにも潜り込める。FRBだろうがDOD、フォート・ミードだろうか変わりはない。まぁ一種のゲームだね。様々な仕掛けや落とし穴を見つけ、それを克服しながらゴールにたどり着くんだ。日本のコンピュータなんかは、セキュリティが笊みたいなものだから、洗練されたゲーマーには張り合いがない。だから却って安全なんだよ。」

「コンピュータゲームはどんなに複雑なものでも、所詮は誰か他の人間が作った人工の仮想世界だろ?WikiLeaksだって、元々のルーツは同列だった。はしっこいハッカーは事実上どんな情報にだってアクセスできる。連中はそういう情報を覗き見しては、仲間内でそれを回覧することで、自分がどれほど難関とされているセキュリティを打ち破ったかを自慢しあっていたのだよ。」

「しかし、ハッカーにはハッカーのモラルみたいなものがあった。それは、セキュリティを破って取得した情報そのものは利用しないというものだ。彼らには『一般人』という蔑称があって、ハッカー以外の人間は皆一般人なのだ。その『一般人』を自分たちのハッキングに巻き込むことは、汚らわしいことで忌むべき行為だったのだ。だからFRBや、日本ならMUFJのコンピュータ、それに防衛省は勿論、DoDのコンピュータにもアクセスできて巨額の金を我が物にしたり、世界のどこかで紛争を起こしたり、或いは逆に紛争を竜頭蛇尾の笑い話にしてしまったり出来たのに、それが『一般人』の世界で問題になったことはない。そんなことをするのは彼らにとっては外道の行いだったし、何よりもそんな事には興味がなかったのだよ。」





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最終更新日  2010.12.05 05:17:18
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