破産法編 第14章 相殺
昨日で要件事実が終わりましたが、破産法がまだ終わってませんでした。先に破産法の続きをするべきでしたね。申し訳ありません。破産法編第14章 相殺最後の章となりました。最後は相殺です。以前,民法編で相殺を扱ったとき,相殺は,お互いの債務をチャラにする制度であって,お互いが義務を履行する面倒臭さを無くす制度だと申し上げました。例えば清水君があなたに1000万円の不動産を売り,あなたが清水君に1000万円を貸したとき,お互いが現金1000万円を準備して交換するのは無意味ですし面倒臭いので,ひとこと「相殺する」とさえ言えばお互いが払ったことにしてしまうのが相殺です。ですが,今は,相殺は単に面倒臭さを無くす制度ではなく,担保としての機能が期待されています。例えば,先ほどの例ですと,あなたは清水君に1000万円貸す時に,「清水君が本当に1000万円を返してくれるか不安だな。でも,いざとなったら不動産の代金と相殺してしまえばいいや」と考えるでしょう。このように,相殺も担保としての機能があるため,抵当権をはじめとする別除権と同様に,破産でも相殺は重要視されるわけです。そして,破産法においては,相殺はかなり強力に認められています。(相殺権) 第六十七条 破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。 2 破産債権者の有する債権が破産手続開始の時において期限付若しくは解除条件付であるとき、又は第百三条第二項第一号に掲げるものであるときでも、破産債権者が前項の規定により相殺をすることを妨げない。破産債権者の負担する債務が期限付若しくは条件付であるとき、又は将来の請求権に関するものであるときも、同様とする。 民法上の相殺は,双方の債務が履行期にあることが必要ですが,破産においては期限未到来でもかまいませんし,解除条件がついていてもかまいません。じゃあ,停止条件はどうなるんだとお考えでしょう。停止条件つき債権の場合,現在は債権を請求できる状況に無いので,相殺は出来ませんが,停止条件が成就次第相殺できるように,その分のお金を取っておくように請求できます。(停止条件付債権等を有する者による寄託の請求) 第七十条 停止条件付債権又は将来の請求権を有する者は、破産者に対する債務を弁済する場合には、後に相殺をするため、その債権額の限度において弁済額の寄託を請求することができる。敷金の返還請求権を有する者が破産者に対する賃料債務を弁済する場合も、同様とする。 これだけ強力な相殺なので,上手く債権を操作して相殺したくなる人がいます。それは許されないので,破産法71条・72条で相殺禁止規定がおかれています。(相殺の禁止) 第七十一条 破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。 一 破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき。 二 支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、又は破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。 三 支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。 四 破産手続開始の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき。 2 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する債務の負担が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。 一 法定の原因 二 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因 三 破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因 第七十二条 破産者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。 一 破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき。 二 支払不能になった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき。 三 支払の停止があった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。 四 破産手続開始の申立てがあった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき。 2 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する破産債権の取得が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。 一 法定の原因 二 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因 三 破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因 四 破産者に対して債務を負担する者と破産者との間の契約 条文自体は分かりやすく出来ているのですが,自分が71条を適用されるのか,72条を適用されるのか混乱しがちなので,ご注意ください。これで、破産法編も終わりです。破産法は飛び飛びになってしまい、申し訳ありませんでした。応援していただける方は、下記のバナーをクリックしてください。【参考本】Cーbook倒産法この本は、倒産法の予備校本です。基本書に抵抗のある方は、こちらをおすすめします。