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台湾役者日記

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2005年05月20日
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カテゴリ:創作物件

 日の射してくる足許から、潮の匂いのたっぷり含まれた風が吹いてきて、目が覚めた。

 広いベッドにはわたしだけで、女はいつの間にか姿を消している。いや、いつの間にか、というのは嘘で、ほんとうは、彼女はわたしが眠りに就く前にこの家を出て行った。いや、出て行った、というのも実を言うと正確ではない。この家は彼女の住まいで、わたしはここに置いてもらっているにすぎない。と言うか、もっときちんと説明すれば、彼女はわたしがここを出て行くまで帰って来ない、と言い置いて、この日の朝、出て行ってしまったのだ。つまり、わたしはここに置いてもらっていたことはいたのだが、それももうおしまいにしなければならないのである。そうなることは分かっていたのに、それを避けることは出来なかった。それを避けたいと腹の中では思っていたはずなのに、意地を張り出すとどうしようもなくて、それに、女はそこのところだけがわたしにそっくりだったから、ふたりは、宿命の足音がだんだんと大きくなって近づいてくるような気持ちを一緒に予感しながら、この日を、まるで予めその日付まで知っていたかのように、迎えたのだった。

 もう取り返しがつかないのは分かっていた。あなたが出て行くまで帰って来ない、と言い置いて女が出て行ったのは、和解の可能性を完全に絶つためだ。それは、わたしが未練がましく彼女の許しを請うかも知れないのを彼女が懼れた、と言うよりは、より多く、自分がわたしの許しを請うかも知れないのを彼女自身が懼れたためである、ということをわたしは知っていた。彼女は、自分の弱さを知っていて、そのことが許せない、と言うよりも、その弱さに自分を支配させることを許さなかった。要するに意地っ張りなのだが、その意地の張り方が彼女の弱さに見合う分だけ激しくて、ついには、彼女に対して未練がましく許しを請うだけの最後で最低の自由をもわたしに許さないような方法で、わたしの目の前からいなくなってしまったのだ。それだけに、彼女が不憫であり、それと同じくらいに、彼女を取り戻す術のない自分が不憫で仕方がなくて、この日の明け方、わたしは、立っていることも出来ず、ベッドに倒れ伏して、そのまま眠ってしまったのだった。

(つづく)


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改稿:2005年5月21日
仮題設定:2005年5月22日
改稿:同
改題:2005年5月31日夜、仮題を「たまゆらの」に変えた。





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Last updated  2005年06月02日 09時05分59秒
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