「あなたは昨日、お亡くなりになりました。
ここにいる間にあなたの人生を振り返って
大切な思い出をひとつだけ選んで下さい。」

生と死の間に、その施設はある。
月曜日にやってきたばかりの２２人の死者に
職員は思い出を一つだけ選ぶための手伝いをする。
里中しおりはまだ新米のアシスタントだ。
彼女の目は一生懸命先輩職員を追いながら、
自分も自分なりの仕事をする。
ここに来た死者に与えられた時間は、７日間。
その間に思い出は映画となり、
最後の日に上映される。

是枝裕和監督作品。
ゆったりとした時間を演出する。
里中しおりはオーディションで選ばれた小田エリカ。
望月隆をARATAが演じる。
同じく職員に、内藤剛史、寺島進、谷啓。
伊勢谷友介が印象的な役で出ている。
一般の方々と共に死者の役には
内藤武敏、香山京子、吉野紗香と多彩。
怪演、由利徹の遺作となる。

古びた建物。
木目は長い年月を物語っている。
枯葉に新緑、たゆたう水の音。
小道具の宝庫となった倉庫。
カタカタとなる映写機。
穏やかな
穏やかな
光景。

椅子に座り、
職員の声に導かれ思い出をさがすひとたち。
赤い服を着て踊った幼女の時代が再現さえる。
イメージに近い女優役の女性に
老女はああだこうだと言う。
大きな飛行機のセットが組まれ、
第２次世界大戦と関東大震災が再現され、
あるいは学生時代に戻り、
あるいは妻との思い出が語られる。
何も選ぼうとしない青年がいて
自分の人生が録画された７０本のテープを観て
こんなはずじゃなかったと
幻滅する老人もいた。

里中しおりは奔走する。
そして思い出を選べずにここにいる
職員たちの人生にも触れる。
若くして戦争で命を落とし、
選ぶ思い出もないままここにいる望月も
やっと思い出を選ぼうとしていた。

生と死の間に、その施設はある。
行き来のできない二つの世界の溝を渡るには
思い出はたった一つだけでいい。
他にも何もいらない。
自分探しというものは
生ある者には永遠に出せない答えなのだ。
だがここで立ち止まり
いろんな思いを職員に語りながら
浮かんでは消え消えては浮かぶ思い出の中に、
どうしても消えぬものを見つける。
月日など関係ない。
そこにいる自分は
ちっとも色焦せていない。
そこに、いる。
それが生きている証。

望月が選んだのは
生前の自分の思い出ではなかった。
人と関わってきた自分、
人の想い出の中にいある自分。
そこには他の誰でもない望月隆、彼がいた。