ロイのこじんまりのした部屋の横にあるプールが
ユラユラ揺らめいて壁に反射したり、
彼の顔の表面でも揺れているのを観ると、
この監督のヤルコトにお手上げになる。
ニコラス・ケイジの演技は
ワザとらしくなる手前で
ワザを出し切っていて、
それだけでも完成品なのに、
リドリー・スコット監督は
事務所の中でロイと相棒のフランクが立つ位置や、
車を走らせているロイとアンジェラの
車窓に映る景色にまで計算が行き届いている。
大体どこにでもありそうなアメリカの街そのものが、
巨大な舞台装置にさえ思えてくる。

「おめでとうございます」
などといかにもお得な権利を獲得したとばかりに
電話の向こうの一般人に水の濾過装置を高値で売りつける。
一般人もそうは簡単に騙されないようで
押したり引いたり弁舌も鮮やかに。
時には捜査官にもなりすまし相手の疑惑をそらしたりする。
だが所詮小さな商売の儲けは少ない。
そこでロイとフランクは
ロイの娘と名乗るアンジェラと一緒に、
金持ちチャック・フレシェットを騙す計画に
着手する、のだが。

3回ドアを開けなければ部屋に入れない、
潔癖性で食器を汚せないからツナ缶は缶詰から。
それで得られる「安心」と精神科医の薬で得られる「安心」と、
娘だと名乗るアンジェラと暮らすうちに、
自分の中に芽生えてきたらしい「安心」。
そんな「安心」なんぞは人を「安心」させたりしない。
ロイの部屋はプールの揺らめきに浸されている。
ユラユラ揺れるものに身を任せるのはラクだが、
水の中に身を任せていれば、
足はいつも宙に浮いている。

足元がおぼつかない。
人はバランスを崩すと酔うのだ。
船の揺れは人の身体のバランスを崩す。
ロイは優秀な詐欺師だが
つけ込まれるスキだらけではないか。
フランクが放っておくはずがないのである。
フランクはロイの背中をずっと見ていた。

どこにでもありそうなアメリカの街の中。
「安心」が氾濫している。
アンジェラがロイの娘として現れたのは
14歳の少女としてである。
髪型も化粧も服もアイスクリームを欲しがるのも
少女だとすれば「安心」の範疇。
同居している男がいて化粧が濃くて、
露出の高い服をきている14歳の娘がいれば、
何があったのかと心配になるだろう。
「不安」「不安」「不安」
ゆらゆら揺らめく水面はとどまることがない。
アリソン・ローマンのアンジェラ、
サム・ロックウェルのフランク。
ニコラス・ケイジの芝居にナチュラルな対応。
そのナチュラルさが曲者に変わる瞬間が痛快だ。
すべては揺らめく水面に
ゆらゆらと漂い続けていた結果なのである。

ロイとアンジェラ。
最後は全く別の姿をして再会する。
二人とも足に地をつけて生きているのか、
なんて、わかったもんじゃないが
父と娘だったという記憶だけはしっかりと
刻まれているようである。
微塵も揺らぐことなく。