西と東が出会う。
距離の長さは文化の違いとなる。
だが真摯なまなざしは総てを乗り越える。
確執は避けることは出来ないだろうが、
総てを乗り越えて欲しいと願う。

往年のミュージカル映画『王様と私』は
両雄並び立つが如きキャスティングで甦っていた。
イギリスから来た家庭教師アンナはジョディ・フォスター。
シャム国王モンクットをチョウ・ユンファ。
役者として二人は
間違いのない演技を見せようしていた。
イギリス人の女性はこう考える、
シャムの国王はこうなのだ、と。
特にチョウ・ユンファの国王は見事。
国王の華やかな衣服を違和感なく着こなし、
大柄な身体で民衆を包み込むように立ちつくす様。
『亜州影帝』の貫禄である。
生まれた国の違いは埋められなくても、
演技の力で国王足らんとしていたようだ。

女性という存在ひとつも、
西と東では大きな差があるのだ。
モンクット国王には23人の妻と42人の側室、
そして58人の子供がいた。
アンナはその子供たちの家庭教師に過ぎないのに、
国王の前でも胸をはって相手を目を見つめ、
言いたいことを言い放っていた。
ジョディ・フォスターが演じれば、
彼女は息子をともにどんな苦難を抱えて、
イギリスから遠い異国へやってきたのか見えてくる。
母親一人で子供を育てるには強い意志が必要、
男や社会に傅いていても生きてはいけない。
彼女が演じればアンナは
物語の外にある姿まで雄弁に語る。

だが東の文化は、
心の底を思いのまま語らない。
慈悲深い国王はアンナが語りすぎたために、
側室タプティムとその恋人を罰せねばならなくなった。
彼は王であり、国の神なのだ。
イギリス人女性の言うがままにはなれない。
物事を進めるには「理」があるのだ。

だが女性たちや子供たちは、
アンナを通して西の国を見つめていた。
受け入れるのではなく観ていたのだ。
それは皇子チュラロンコーンを
国際的な時代を担うにたる偉大な王にしたと言う。

動乱の時代を迎え二人の役者は
やはり正確に可能な限り違えないようにして
イギリス人であろうとし、国王であろうとした。
豪華なセットやエキストラは19世紀半ばという時代を
しっかりと見せてくれていた。
見応えのある映画である。
だがこの映画は
タイで撮影することは叶わなかった。
おそらく今も上映禁止だろう。
往年の名作がタイ王室を侮辱するとされ、
今回もチョウ・ユンファの国王で撮影を申請、
だが受け入れられなかったと聞く。
映画はマレーシアで撮影され
エキストラもマレーシア人だそうだ。

見応えのある大作ではあるが、
ハリウッド映画であることは確かだ。
これまでも多くの作品が異国の地を間違って描いてきた。
日本もよく驚くべき姿で描かれることもある。

だからこそ、
この映画は可能性を見せてくれた。

西と東が出会えば文化の違いが衝突を生む。
間違いも多かっただろう。
だが見応えのある映画なのは確かだ。
ジョディ・フォスターとチョウ・ユンファの共演は、
この映画の良心に見えたのである。