思いも寄らぬ事態が続く。
そんな状況に彼らは追い込まれた。

ケビン・スペイシーの初監督作品。
舞台劇を意識したバーという密室の中、
人質と犯人の人間関係が交錯する。
皆、苛立っているのは、
思いも寄らぬ状況から抜け出せぬせい。

3人組の強盗が、精銅会社の事務所を襲撃した。
だが、何も盗めず逃走する。
別の事件を追う警察官とのカーチェイスの果て、
警官をひき殺した上に、交通事故が重なり、
リーダー格の男が車から投げ出された。
そうして三人は、負傷した男を抱え、
バー「ディノ・ラスト・チャンス」に逃げ込む。
犯人3人、従業員を含め人質5人。
警察の対応ははやかった。
何せ警察は、銃器密輸犯を追って、
バーの周囲にウジャウジャいたのだ。

個性的な俳優が顔を揃える。
頭の回らぬ優柔不断な強盗はマット・ディロン、
冷静沈着で殺人を回避しようとする彼の兄は、
ゲイリー・シニーズが演じている。
人質側は、フェイ・ダナウェイと
スキート・ウーリッチが親子である。
曲者のギィを演じるのは、ヴィゴ・モーテンセン、
一目で彼とは認知しにくい扮装である。
だが、最初は誰が誰か、誰も知らない。
バーに犯人が3人侵入、
その時、店には、従業員を含め5人いた。

それがやがて、強盗の3人のうち
2人が兄弟だとわかる。
ビリヤードの青年と従業員の女性が、
親子だということも。
そして、ギイと名乗る男が、
本当は警察が手配中の銃器密輸犯である。
しかもテレビレポーターが言うには、
犯人1人、人質6人。
ギイの顔写真が映し出されていた。

皆、苛立っている。

警察が外にウジャウジャいるのだ。
窓一つない地下のバーという密室、
抜け出すにはどうすればいいのか。

ギイが提案する。
人質を解放すると言って、
強盗団の3人が外へでればいい。
ギイが銃器密輸犯だとわかる。
犯人はギイにすればいい。

アルビノ・アリゲーター
白いワニは、生贄として扱われる。
誰かが犠牲になれば、誰かが助かるのだ。
犠牲になるのは人質なのか、
果たして、犯人なのか。

すべては、思いもよらぬ状況。

そうしようとも
そうなるとも
誰も願っていなかったはず。

舞台劇さながら、場面展開は少ない。
音楽を小気味よく使うが、
緊張感を生み出すほどでもない。
決して秀逸な作品ではないが、
丁寧なカメラアングルと、
観る側を振り回さない脚本の誠実さが、
この作品にユニークな魅力をもたらしている。
密室の中で暴露されるのは
人間とは単純なようで複雑、
複雑なようで、単純であること。
兄を裏切りながら、兄を慕い、
息子を守るために、人を殺す母親。

思いもよらぬ事態。
その時の選択に正義も罪もない。
優先されるのは、
そこから抜けだし生き残ること。

誰かを犠牲にして。

人質でもなく犯人でもなく、
生き残ったのは3人なのである。