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小説 「君に何が残せたのかな」-2

~日比谷という人物~

六本木交差点。
多くの人がいる中で少し背の高いすらっとした人物が経っていた。
端正な顔立ち。
身長も高い。
だが、あることから彼女は作らないって決めていた。
不思議なものだ。
この相談をするのが日比谷になってしまうのだから。
いや、多分日比谷なら全ての期待を裏切らずに対応をしてくれる。
私はそう思っていた。
そう、ふわふわする頭の中で自分の「これから」をそして「エゴ」といわれるかも知れない勝手を考えていた。

6ヶ月しかない。
そう思うとやることはいっぱいだ。
私はとりあえず、宝くじの事は誰にも言わないでおこうと決めた。


「お待たせ」

日比谷に声をかける。
どうやら、少し前にタバコをすい始めたらしい。
マルメンライトの香りが広がっていく。

「ああ、この1本だけすわせてくれよな」

日比谷はそういってにこっと笑った。
この笑顔に後何回出逢うのかな。
なんて、変なことを考えてしまった。
どうも、頭の中では「後何回なんだろう」って色んなものを見ると思ってしまう。

「ああ、いいよ」

私はそういえば禁煙をしていたんだ。
思い出した。
綾が言っていた。

「体に悪いからタバコやめてよね
 私どうしても行きたい場所があるの。そこは禁煙だし、長時間かかるのよ」

今になって思うと不思議なことだ。
今辞めても、6ヶ月後には私には死が待っている。
吸おうかどうか迷ったが、匂いで解ってしまう。
そう、変な行動を取ると綾がすぐに気が付く。
普段通りでないと。
私はそう思い、少し離れた所へ移動した。

「悪かったな。
 んで、どこに行く?」

日比谷がそう言って来た。

出来れば静かなところがいい。
いや、この近くだと職場の人がばったり話しを聞いているとものすごくめんどくさくなる。
私はそう思い、ちょっと離れた店を選んだ。

「Bajamarなんてどうだ」

って、よく考えたら日比谷は六本木ヒルズが職場だ。
それだったらヒルズ待ち合わせでも良かったのではと思った。
だが、日比谷は

「ああ、いいよ」

と言ってくれた。
そう、日比谷は基本的にこういう時は怒らない。
いや、怒っているイメージがない。
最後まで怒らずに聞いてくれるかな。
店に行く前に予約をする。
後数分で付くのに予約。
店の前までいって入れないのは避けたい。
私の癖なのかも知れない。
そう、会社で急な飲み会がある時はいつもこうしている。
たまに無理なお願いをしたりもする。
そう、歓送迎会などをする時にケーキを出してもらったり、事前にプレゼントを預かってもらったり。
慣れてくると色んな要望をかなえてくれる店もあることを知ってくる。
数分後だが、個室が開いていたので予約した。

「日比谷、店開いているみたいだから、行こうか」

私はそう言って歩き出した。
歩きながらたわいのない会話をする。
お互いの仕事の愚痴、最近見たドラマ。
どこに飲みに言った。
不思議と綾の話題は出なかった。
私は変な雰囲気を作っていたのかも知れない。
何も言わず、日比谷はいつも受け止めてくれる。
だから安心するのかも知れない。
話していたら、店についた。

中南米風のこの店は昔綾が教えてくれた店だ。
その時はイリュージョンナイトの日だったな。
エコ活動のキャンドルナイトの時にまた来たいといっていたのを覚えている。
今の私に「また」とか「今度」という言葉ほど痛いものはない。
そう、気が付いたらタイムオーバーになってしまうのだから。
エンドが決まっている。
まるで納期前の仕事みたいだな。
徹夜や会社に泊まりこみを続けて仕事をこなす。
最後の追い込みだ。
私はこの6ヶ月が人生の追い込みになるのかも知れない。
後悔だけはしたくない。
いや、後悔だけはさせたくない。
そういう思いが強くなってきている。
だからこそ、協力者が必要なんだ。
自分が思っていること全てをするには。
私のエゴかもしれない。
けれど、私はもう決めたんだ。

「先ほど予約しました結城です」

どれだけ考え事をしていても、その場に来たら切替をする。
仕事で付いた癖なのかも知れない。
店員に案内されて個室に入る。

「なんだ、結城
 オレを口説く気かい?」

日比谷がおどけて話しをする。
このテンションの日比谷が見られるのも後少しなのかも知れない。
私はどれだけ自分が思い足かせを日比谷につけようとしているのかを今更ながら気が付き始めた。
いや、もっと前から気が付いていた。
ただ、目をそむけていただけなのかも知れない。

一通り、ドリンク、料理を頼んだら、日比谷の方から話しかけてきた。

「結城、何があったんだ。
 いつもと違ってかなり深刻なんだな。
 綾とケンカでもしたのか?
 って、ケンカくらいじゃこんなカンジにならないしな。
 一体何があったんだ?」

ものすごく気を使って日比谷が話しかけてくれる。
それだけで実は助かっている。

「実は、今日病院の検査結果があったんだ
 おれ、病気らしい。
 後6ヶ月の命なんだってさ。
 もっても1年。
 な、笑っちゃうだろ」

私は自分で言いながらリアリティーのなさに笑ってしまった。
だが、言いながら不思議と涙がこぼれていた。

「な、なんで泣いてるんだろうな。
 こんなリアリティーのない話しなのに」

だが、日比谷は違った。
いや、日比谷だから違ったのかも知れない。

「なぁ、結城。
 なんて声をかけていいのか正直わからないが、これから後悔しない人生だけは送って
欲しい。
 それと綾にはもう言ったのか?」

日比谷は確信をついてくる。
そう、私は悩んでいた。
いや、もう実は決めていた。
ただ、どうすれば実現できるのかがわからなかった。

「実は、まだ言っていない。
 ただ、綾には言わずにいられたらと思っている。
 だから、どうにか綾を傷つけずに、私が死ぬ時には色々なことを知らずにそっと
 終われたらって思っている。
 この結果から考えたら綾の7年を奪っただけだ。
 もっと早くこの結果がわかったら違ったのかも知れない」

私は自分の気持ちを吐露した。

「おい、ふざけるな」

日比谷の怒鳴った声を始めて聞いた。
私は日比谷の顔を見た。
真剣な表情。
そして、目に涙を浮かべている。
日比谷は続けた。

「知ってるだろ。俺が彼女の死に目に会えなかったのを。
 彼女は交通事故で死んだ。
 オレは彼女と過ごした時間を無駄なんて思ったことは一度もない。
 綾だってそうだ。
 お前が死んだことをどこかで知ったら、悲しむに決まっている。
 隠し通せるとでも思っているのか?
 お前やオレだけならいざしらず、何人の人間がお前ら二人に関っていると
 思っているんだ。
 お前がどんな行動を取ったとしても、いずれ綾はその行動の理由に気が付く。
 綾はそんなに鈍感じゃないだろう。
 ちゃんと考えろよ。
まだ6ヶ月も時間があるんだぞ」

そう、日比谷は彼女が交通事故に合って死んだ時、海外に行っていた。
急いでチケットを取って戻ってきたが、葬式にも間に合わなかった。
それからだ。
浮いた話し一つなく、毎年彼女の命日に彼女の実家を訪問するのは。
誰も日比谷を責めることなんてしない。
日比谷はただ自分を許せていないだけだ。
そして、日比谷はその彼女の思いをずっと胸にしまいこんでいる。
私はこの日比谷を見ているからこそ、余計に綾にこんな気持ちにさせたくないって思う。
エゴなのは解る。
私は日比谷に伝えた。

「日比谷の言いたいことはわかる。
 いや、日比谷のあの時のことがあったからこそ、その時ずっと横に私と綾がいたから
 こそ余計なんだ。
 新しい一歩を踏み出して振り返らない人生を送るか、どうにかして綾にそんな足かせを
 つけたくないんだ。
 だから綾を苦しめない方法を一緒に考えて欲しいんだ。
 日比谷、巻き込んですまない」

私は自分の感情を伝えた。
だが、怒っていた日比谷は違っていた。

「巻き込んですまないって、24の見すぎじゃないのか。
 ジャック・バウアーかよ
 結城の気持ちが変わらないのは解った。
 オレも考える。綾にとって、結城にとって何が一番なのかを。
 ただ、これはオレら二人じゃ到底できないぞ。
 まだ、協力者が必要だ」

日比谷が笑いながらそういってくれた。
多分、私の気持ちが変わらないことをさっしてくれたのか。
いや、日比谷のことだ。
今闇雲に否定をしたら余計に話しがこじれるから、時間をかけて説得をしてくるのではと思う。
ただ、そう。
私は決めていることがある。
自分の残りの人生で何が出来るのかということを考えるということを。
日比谷の思いをかみ締めながらもう一人協力を願いたい人物の名前を告げた。

「実はもう一人協力を頼みたい人物がいるんだ。
 篠塚さつき
 なんだ」

一瞬日比谷が固まった。
篠塚さんは綾と一番仲がいい人物だ。
日比谷もそれを知っている。
だが、日比谷は篠塚さんが苦手なのも知っている。
性格が合わないというわけではない。
相性はかなりいい方だ。
趣味も合うし、話しも合う。
ただ、問題が1つだけある。
日比谷が昔付き合っていた彼女にかなり似ているからだ。
容姿も、性格も。

「本当に巻き込んで、すまないと思っている
 なんて、思っているだろう」

日比谷は笑い出した。

「ジャック・バウアーにはまっているのは日比谷もだろう
 明日、篠塚さんには私から連絡をしておくよ」

私はそういって、スケジュールに『篠塚へ連絡する』を追加した。

すると、日比谷から一つの提案が出た。

「これから、6ヶ月。
 色んなことがあると思う。
 多分こんな提案をするのは違うかも知れないが2つだけお願いがあるんだ。
 1つは、綾との出会いを形に残して見直してほしい
 1つは、これからの記録をブログで残してほしい
 6ヶ月経った時にログインとパスワードを教えてくれ。
 結城という人物がこの世界に確かにいたという形に残したいんだ」

そう、この提案が日比谷が私の協力をする条件だった。
私はこの日から自分の「死までの残り6ヶ月を綴って」というブログを立ち上げるキッカケとなったんだ。



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