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カテゴリ:判例、事件
「訴因変更命令」という、刑事訴訟法の教科書でしか見かけないような用語が、新聞に載っていました。しかも、かの有名な事件で。
博多湾で飲酒運転により車を衝突させ、幼い子供3人が亡くなったという事件。 検察側は、「危険運転致死」を理由に懲役25年を求刑したところ、福岡地裁は、「業務上過失致死」(刑法211条)に主張を変えなさい、と命令したというのです。 危険運転致死罪(刑法208条の2)は、1年以上の有期懲役。懲役25年もありうる。 業務上過失致死は、上限でも懲役5年。 (細かい話ですが、道交法違反との併合罪なので7年半まで科することができる。刑法を学んでいる方ならわかりますね) 「訴因変更命令」とは、刑事訴訟法第312条2項に規定がある制度です。 刑事事件において、検察側の主張する有罪の理由(すなわち訴因)が的外れだと、裁判所としては無罪の判決を出さざるをえない、それは不合理なので、裁判所が認めうる別の罪に訴えを変えなさい、ということです。 本件の新聞報道によりますと、被告人の呼気検査から検出されたアルコール濃度がそれほど高くなく、危険運転致死罪の条文にある「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とまで言えず、道交法に言うところの「酒気帯び」程度に留まるというのが弁護側の主張で、それが認められる余地が出てきたようです。 検察側が危険運転致死罪を主張するが、そのような事実(酩酊状態で危険な運転をしていた事実)までは認められない、だからそれより軽い業務上過失致死罪で訴えなさいと命令したわけです。 検察官が裁判官から、「あなたの主張は成り立たないから、別の主張に変更しなさい」なんて言われるのは、極めて屈辱的なことでしょう。だから普通、裁判所もそんな命令を出すことはない。よほどのケースに限られると思います。今回はそのよほどのケースだということです。 この福岡の事件は、幼い子供3人が溺れ死んだという結果の悲惨さなどから、厳罰に処するべきだという感想を持つ方が多いと思われます。 しかし、危険運転致死罪という重罰を科するには、その条文が予定しているだけの危険状態があったか否かを慎重に見極める必要があります。 勢いのままに危険運転致死罪で立件した検察に対し、その見極めを慎重に行おうとした裁判所の姿勢は、望ましいものであると思われます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/12/19 08:12:11 AM
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