宿命 ミュージカル『Lady·Bess』観劇
その星のもとに生まれた者。初演の時には残念ながら観劇できなかったので、無事に再演のチケットが取れてひと安心でした。心から観たいと思っているものは、どの様な形であれ観られるものなのですね…!(公式ホームページより)まず、舞台上に浮かぶ十二星座を模した美しい円形の盤に目を奪われ、レディ・ベスの世界観にぐっと引き込まれました。ストーリーは、若き日のエリザベス一世がクイーンとなるまでの物語。16世紀のイギリスが舞台。世界史でさらっと学んだものの、イギリスの歴史は詳しくないので、アン·ブーリンやメアリー·チューダーなど名前は何となく記憶にあるな、という人物について立体的に知ることができて、勉強になりました。また、重厚でドラマティックな音楽も素晴らしく、所々ケルト音楽や民族音楽のような雰囲気も織り込まれており、音楽的な面でも存分に楽しめました。個人的には、チェロの音色がよく効いていて、素敵でした。話の冒頭から、占星術の話がでてきたり、セットもホロスコープを模したものがずっと形を変えながらも舞台上にあったりと、さすがイギリスのお話だな…と感じながらストーリーを追っていたのですが。途中から、これは、運命や宿命の話なのかもしれない、と気づきました。ベスは生まれのことで(具体的には母が原因で)、辛い目に合います。そして、一度は王女として生まれた自分を捨て、自由になろうとします。しかし、最後には運命に引き戻されるかのように、玉座に就くことになります。たった一度きりの人生だ、自由に生きよう!と歌う、吟遊詩人のロビン。私は父が誇れる王女になるのだ、と心に刻んで生きてきたベス。二人の出会いがベスにもたらす変化。(もちろん、若かりし頃のエリザベス一世に吟遊詩人の恋人がいるわけがないので、恋愛の部分は創作なわけですが)クイーンとなる前、少女の頃にあったであろう葛藤や苦悩が分かりやすく描かれていました。信念を貫く。心に従う。このようなキーワードが散りばめられており、ベスの心情とともに、人生を自分の意思で歩むことの力強さのようなものを教えてもらった気がします。エリザベス一世が築いたイギリスの黄金時代を知っている私たちからすると、ベスが女王となることは運命だったのだろう、と感じますが、やはり女王になることによって捨てなければいけないもの、諦めなければならないものがあった(のだろう)ということ、そういう光に隠れた影の部分を感じました。ベス役の花總まりさんは、これぞ真骨頂!というべき、高貴さ、美しさで、すっかり魅了されてしまいました。私は特に、少女時代の無邪気さやクライマックスの瞳の力強さが好きです。ロビン役の加藤和樹さんは、吟遊詩人の土臭い感じはなく、洗練された芸人という印象を受けました。お歌も聞きやすく、名曲を素敵に歌いこなしておられました。ロビンのテーマ(?)曲は、私の好みのケルト風の旋律だったので、もっと沢山歌って欲しかったです…。日本が初演だという本作。wikipedia(こちら)の解説にも『「なぜ、エリザベス1世はイギリスの歴史上最も偉大な女王たりえたのか?」「なぜ、処女王と呼ばれた彼女は生涯結婚しなかったのか?」という、多くの歴史家が長年議論を重ねたこの二つの疑問に対して、その答えを彼女がまだレディ・ベスと呼ばれていた時代に求めた。それは、彼女が少女時代にその出自により中傷され、迫害された経験により学んだ宗教的寛容の精神であり、一生を捧げた叶わぬ恋であるとした。』とあるように、深い構想の末に生まれたこの作品の初演が日本だということも、何だか不思議な感じがしますが、歴史物語としても、ひとりの女性の成長物語としても、または恋愛物語としても、名作といえる、ミュージカルでした。