「さよなら子供たち」の音楽
先週のお薦め映画「さよなら子供たち」のラストはやはり泣けた。 ストーリーは、ユダヤ人のボネが学校に転向してからゲシュタポに捕まるまでのお話。 暗めの色調で描かれる中学校の生活や周辺の森の風景はテレビで観ても美しさが伝わってきた。少年の生活と心の交流が淡々と描かれる地味な映画なので、正直だれるところもあるが、最後の別れのシーンは胸にせまるものがある。篠田正浩監督の「少年時代」を思い出した。お薦めである。 さて、この映画には、シューベルト「楽興の時」第2番が重要なシーンで繰り返し流れ、とても印象に残った。 もうひとつ音楽で印象に残ったのは、子供たちがみんなでチャップリンの喜劇を観るシーン。スクリーンの脇でピアノとヴァイオリンの伴奏音楽として、サンサーンスの「序奏とロンド・カプリッチョーソ」演奏される。ご存じの方もいるかも知れないが、映画の歴史上初めて映画のためにオリジナル曲を書いた作曲家は、サン・サーンスである。フランス人のルイ・マル監督はきっとこの事実を意識して、サン・サーンスを使ったのではないかと思う。 サン・サーンスが音楽を提供したのは、1903年に制作された「ギーズ公の暗殺」という歴史的事件を題材にした18分ほどの映画である。サン・サーンスは、別名フランスのモーツァルトとも呼ばれた天才作曲家。しかし、この称号にはどんな大曲でも安易に創ってしまうという、皮肉も込められていたようだ。サン・サーンスの映画音楽がいかなるものか、聴いたことがないのでわからないが、当時すでに78歳だったサン・サーンスが、誕生したばかりの映画という新しい芸術に果敢に挑戦した心意気は、評価されるべきだろう。