「9月の雨」(September in the Rain)
雨というと梅雨時が思い浮かぶが、日照時間を較べると6月より9月の方が短いらしい。つまりそれだけ雨の日が多いということだろう。台風は避けたいが、小雨程度なら秋の序曲として風情があっていいものだ。雨は人を感傷的にさせるのか、昔から洋の東西を問わず雨をテーマにした音楽は数多い。クラシックなら、ショパンの「雨だれ」、ブラームスの「雨の歌」、ドビュッシーの「雨の庭」などが思い浮かぶ。ジャズのスタンダードナンバーには、今の季節にぴったりの、そのものズバリ『9月の雨(September in the Rain)』という曲がある。様々なジャズメンが録音しているが、やはりもっとも有名なのは英国生れの盲目のピアニスト、ジョージ・シアリングのものだろうか?「9月の雨」はクールなサウンドでかつて一斉を風靡したシアリングのテーマ曲のようなナンバーである。ジャズ・マニアは「シアリングなんか、カーメンキャバレロと似たり寄ったりで、ありゃジャズなんかじゃない」と辛辣な批評をするファンもいる。しかし、ジャズであろうがなかろうが、シアリングのピアノはとても叙情的で美しい。良くも悪くも甘っちょろいのである。そこが彼のピアノの魅力なのだから、私のように根強いファンも多い。肩肘張らずに気軽にジャズを楽しみたいのなら、シアリングはもってこいのピアニストだ。なかでもこの「9月の雨」はライトでおしゃれ。なかなかのもだと思うのだが‥?「9月の雨」のボーカルなら、一押しはやっぱりサラ・ヴォーンだろう(「At Mr.Kelly's」)。サラ・ヴォーンの歌のうまさは今更言うまでもない。特に、この曲のサラは絶品である。----September In the Rain (Al Dubin/ Harry Warren)----- The leaves of brown came tumbling down, remember, In September in the rainThe Sun went out just like a dying emberThat September in the rainTo every word of love I heard you whisperThe raindrops seemed to play a sweet refrainThough spring is here, to me, it's still SeptemberThat September in the rain ご覧のように、詞の内容は9月のイメージとはとても思えない。私は以前9月のニューヨークに行ったことがあるが、セントラルパークの木立もしっかり葉っぱをつけていた。いくらアメリカが広いとはいえ、アラスカでもなければ9月に枯葉は舞うまい。そもそもジャズのスタンダードナンバーの歌詞など、たいして意味はないものだ。極端な話、歌詞を忘れてしまっても「ダバダ、シュダバ、デゥビダバ‥‥」とやってしまえばジャズになる。だから適当に言葉が並び、韻を踏んでいてメロディに乗りさえすれば、それで一丁上がり。このいい加減さ、自由さがジャズなのだ。スタンダード・ナンバーに「スイングしなけりゃ意味ないね」という曲がある。難しいことを考えず、スイングしながらジャズメンの職人芸にどっぷりと浸れば、これほど楽しい時間はない。シアリングでも、サラ・ヴォーンでも、誰でもいい。秋の夜、お気に入りのジャズメンの取って置きの1枚をじっくりと聴いてみましょうか。-----------------------------------------------------------★シアリング・オン・ステージ/ザ・ジョージ・シアリング・クインテット(楽天のCDは中古しか見あたらなかった、残念)der=0 alt="九月の雨">★サラ・ヴォーン「At Mr.Kelly's」(「9月の雨」含)サラのライブ録音。ジャズボーカルの名盤中の名盤。ジャズファンでなくても充分に楽しめる。ジャズクラブの雰囲気でサラの絶妙なボーカルを聴くことができる。お薦めである。