散文小径

　八犬伝じゃない里見の歴史、一緒に追いかけてみましょう。
　時は戦国ただなかへ、いざ、出陣。


　シリーズ・小田原戦役　10



　豊臣秀吉が天下を確立しつつある中、唯一、公然と拒否を示した戦国大名が、小田原の北条氏です。北条氏は信長に頭を下げたのに、どうして秀吉を認めなかったのでしょう。その謎はさておいて、この戦役において、里見氏の命運も大きく左右されました。
　シリーズとして、小田原陣と里見の行方を、一緒に追いかけてみましょう。


　喜連川。
　現在の栃木県さくら市にあたる、この下野の地。ここは古河公方足利氏が秀吉により小名として与えられた場所です。かつては源氏の名門として鎌倉幕府に重んじられ、南北朝動乱を経て京室町に幕府を開いた足利氏。その幕府将軍家を補佐するため東国機関として設けられた鎌倉府の長として留まった関東足利氏の末裔が、喜連川に一藩を興したことになるのです。
　しかし、厳密にいうと、この喜連川を経営維持し厳しい経済状況に立ち向かっていったのは、古河公方家よりも、小弓公方家の尽力が大きかったとされます。そう、新興喜連川氏は、古河公方家と小弓公方家の和合によって成立した小名だったのです。
　そのための尽力を、里見義康が行っていたことを、あまり知る人はいないでしょうね。

　小田原の陣で上総召し上げとなった里見義康。
　その理由のひとつとされた禁制と鎌倉公方復活の祈願。豊臣秀吉の権威のなかに、もはや旧態の象徴である足利幕府はありません。幕府なきいま、関東公方という機関も存在しないのです。里見氏の祈願は豊臣政権体制にない構想であり、かつ、否定されるものでした。
　東国、とくに関東の古い豪族にとって象徴とされた関東公方。
　その存在は東国の武者にとっての権威であり、その代弁を里見義康が行っただけのことです。なぜならば、この小田原陣中期をもってなお、里見家は国府台で没落した小弓公方家の庇護者だったからです。
　豊臣秀吉は権威としての足利氏を否定する代わりに、御家再興という名目でこれに応えました。秀吉の政権ビジョンを肯定させるとともに、東国武士も納得させる策といえるでしょう。それを後押ししたのは、秀吉側室・月桂院でした。月桂院は小弓公方・足利義明の遺児・頼淳の娘です。里見家が表の訴えをしたならば、彼女が裏からの訴えをしただろうことは、想像に易いですね。
　喜連川の当主は、古河公方家を立てて、唯一の血統者である氏姫の婿という形で、月桂院の弟・国朝をして国主としたのです。秀吉の決定だから、これは逆らうことが出来ません。
　この喜連川領へ氏姫が入国したという記録はみつかりません。気の強い、誇り高い姫だったのでしょう、生涯を旧古河公方領で過ごしたと伝えられます。従って、喜連川創業の腐心を負ったのは、国朝であり、それを支える小弓公方家だったのです。
　かつての小弓公方縁者や旧臣の独立を影ながら里見氏が支えただろうことは、察しがつきます。上総を奪われ安房一国に封じられた里見家にとって、言葉は悪いですが〈口減らし〉になるわけですから、進んで支援しただろうと思って不思議ではないでしょう。
　のちに徳川が幕府を開くと、喜連川氏は源氏高家のひとつとして、小名ながらも大名クラスの家格で重んじられました。創業期にそれを支えた里見氏は、そのとき、もう世に存在していませんでした。



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　戦国武将里見氏のNHK大河ドラマ放映を目指す「里見氏大河ドラマ実行委員会」が組織されています。里見氏終焉の地である鳥取県倉吉市、里見氏発祥の地の群馬県高崎市、そして館山市で、NHK側にドラマ化を働きかける運動を行っております。
「2014年に里見氏の物語をNHK大河ドラマで！」
　皆さまの温かいご声援をお願いします。








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