ベッドに私が坐っているとベッドに私が坐っていると ベッドに私が坐っていると 予期された電話が響き 予期された女性の声が流れる 私はまるでそれが最後の 彼女との共有物のように 丁重に扱うが 電話機の中の半導体には 抗しきれず 予期された言葉の一つ一つが 幼児が積み木の塔を 壊すように 崩れ落ちる 今十円玉の枚数を気にしながら 忌々しい決り文句の陰に 身を隠している女性は 何度となくこのベッドに 横たわった女なのだ そんな事実で 彼女の過去への訣別を 脅かすつもりはない 唯、殆どの男女の指定席は 疑いと失念 メンタルなものがフィジィカルなものに 正射影し フィジィカルなものがメンタルなものへと 乱反射する ベッドに私が坐っていると その存在を確かにしたのは 彼女からの電話 一時間後は故里への電車の人となるという 彼女の電話 一時間… 計算された時間の空転 見送りにも行けぬ 私はまるで時間の俘虜 11時半から12時半迄の一時間 二つの身体が離れて行く距離を 一層生き生きとさせる 四次元の魔術師 ベッドに私が坐っていると 思い出すのは 夢をみさせてくれた彼女のこと |