301.新商品は・・・
※この文章は、2003~2006年に大学生・若手社会人向けに配信されたメルマガ『内定への一言』のバックナンバーです。301.『新商品は金持ちから流行させろ』(藤田田)『ユダヤの商法』(藤田田/KKベストセラーズ)は、300刷で刊行が打ち切られた本で、およそ事業をやるほどの人であれば、必ず読んでいる本です。その中に、藤田さんの出身地である「商都・大阪」がユダヤ商人にこき下ろされる場面が出てきますよね。「薄利多売はバカの商法」と見出しのついた章には、こういうエピソードが書いてあります。「たくさん売って利益が少ないとは、どういうことなんだ。フジタの言う大阪商人ってのは、バカじゃないか。うん、きっとバカなんだぜ」。ユダヤ商人の言葉を前に、毒舌の豪腕経営者・藤田さんも反論できず、「安売りの悪」を認めてしまいます。また、他の章には「新商品は金持ちから流行させろ」と書いており、新しい表品を扱う場合は、絶対に社会の下流を狙ってはならず、貧乏人は相手にするな、と手厳しく忠告しています。お金のない若者や、毎日に飽き飽きして刺激が欲しいだけの層に支持されても、すぐにそんな流行は消えてしまうもの。金持ちから始まった流行は「文化」になり、貧乏人の流行は「ブーム」で終わる、ということです。藤田さんは、銀座三越にマクドナルド第一号店を開業する際、外国人や富裕層を狙った逸話を紹介しています。まだまだ日本人の所得もそれほど高くない70年代、アメリカ人のやっていることは即、流行となりました。それで、日本で一番外国人が多い銀座を狙い、マックを出店したのです。すると、アメリカ人たちは「マクドナルドが日本にもできたのか」とゾロゾロと入っていきます。それを見た物好きなお金持ちが入店し、見栄を張りたいOLが入店し、最後に男たちが入っていく…という図式です。また、開業当初から50年先を見据え、「家族で入れる店にする」との戦略で、アルコールやゲームは一切置かない店作りを心がけているのも、先見性を感じるところです。藤田さんは、「人は5歳までに覚えた味を一生求める」との統計から、とにかくCMには子供を登場させ、「家族みんなでハンバーガーを食べる」というのがトレンドだと、徹底的に消費者に訴えていきました。親が別のものを食べたくても、子供が「マクドナルドがいい」と言えば、親は従うほかありません。おもちゃをもらった子供は何度もマックに通うことになり、中学生、高校生と成長しても、永遠にハンバーガーを食べ続けます。そして、彼らの世代が親になった頃には、さらに子供たちをマックに連れて行き、お客の拡大再生産が何世代にもわたって繰り返される…という戦略です。藤田さんは戦争で友達を何人も失い、「日本人がアメリカ人に勝つためには、まず食を改善せねばならない。そのためには毎日40グラムの牛肉を食べることが必要だ」と考えました。そして、「そのために、私は日本人の口にハンバーガーを放り込み続ける」との信念で、全国民の肉体改造を実現しようと誓うのです。「銀座のユダヤ人」と呼ばれた藤田さんは、誰よりも未来の日本を愛する日本人でもありました。藤田さんが日本に初めて導入したブランドで有名なのは、「クリスチャン・ディオール」ですよね。タイラックのネクタイも、藤田さんが日本中に広めています。藤田さんは店舗を持って売る仕事ではなく、店舗に卸す個人商社からスタートしたわけですが、販売コンサルティングの練習も兼ねて、百貨店などの期間セールで自ら売り場に立ち、なんと3,000種類もの「売り言葉」を試して、統計を取っています。「安いですよ」、「お似合いですよ」、「カッコいいですよ」、「買い時ですよ」など、思いつく限りの言葉を並べ、毎回注意深くお客さんの反応を確かめた結果、他の言葉と違って圧倒的に反響を得た一言は…。「上品ですよ」でした。その理由は藤田さんの本で。さて、FUNを作る時も、藤田さんの戦略にあやかったことがあります。FUNは発足当初、毎月の部費は1,000円でした。それは、活動の規模が小さく、講義もなかったからです。しかし、たった1,000円の拠出すら、渋る学生がいました。そして、そういう学生に限って言うことが、「会計を明らかにしてほしい」、「運営会議に入れてほしい」などという屁理屈でした。ということで、経費の明細を見せ、創設者の安田君がどれだけ見えない負担を抱えているかを知った時、彼らは辞めていきました。恥を知ったためか、それとも「将来は自分もこうなる」と思ったからかは、分かりません。また、運営に関わらせてほしいと言ってきた学生に毎月、毎週の作業を話すと、「バイトがあるので忙しい」とか言って、また辞めていきました。そんなこんなで、発足から半年たった2003年9月に、部員はたった2人になってしまいました。ここから、今に続く系統的な就活対策のアイデアが生まれ、取材活動や雑誌作りが対外的に「主要な活動」として告知されることになったわけです。僕は10月から、「週1回」の参加になりました。そして、運営にもアドバイスをするようにしました。僕は安田君のように慈悲深い人間でもなく、道理に合わないと思えば年下でも遠慮しません。ということで、最初の1年は「やる気のない奴は入れるな」という路線を決定しました。それと同時に、「部費を3,000円にする」という決定をしました。これは、1,000円でも「高い」という学生がいて、支払遅延を理由に辞めた経験があったのにどうして、と思われたようですが、僕は一人が無言で経費を負担するようなサークルは続かない、と思ったのです。そして、自分の知識や視野を広げるために「1,000円の投資」も惜しむような下流学生を対象にしても、まともな活動はできないだろう、と思っていました。事実、そういう学生に限って「90分=3,000円」の大学の授業はサボり、連日親を泣かせます。こういう学生はフリーター以下で、当時のFUNが相手にする必要はない層でした。せめて、活動経費=1,000円、雑誌印刷代=1,000円、講義謝礼=1,000円くらいはないと充実した活動はできない、と思ったので一気に部費を3倍に値上げしたところ…。最初に見学に来た牛尾さんと大月さんは、「こんなことが学べて3,000円なんて、安すぎます」とすぐに入部しました。彼女たちの姿を見た同級生たちも、何も言わずに部費を払い、すぐに入部しました。9月までいた意識の低い学生と「行動なき文句」は一掃され、秋からのFUNは見違えるようなサークルになり、その2ヵ月後は、安田君が夢にまで見た「第1回合宿」を開催できるほどの人数、活気が備わりました。いわば、実社会で言う「金持ち」の要素を備えた、人望がある、まじめ、常識をわきまえている、という学生が集まり、良い循環が起きるようになったわけです。これがもし、「貧乏学生」や「口だけ達者な学生」を相手にした方針転換を行っていたら、どうなっていたでしょうか。おそらく、FUNはもう存在しなかったでしょう。皆さんの大学にも、下流学生が作ったサークルや、サボり学生が多いサークルもあると思います。そこは「○○研究会」などと名前は付いているものの、実態は「飲み会と試験情報交換」くらいしかやっていないもの。そんなのは、僕が学生だった頃から同じで、藤田さんの言葉を借りれば「貧乏人は酒を食え」ということです。あるいは、「モテない奴ほど恋愛の話が好き」とも言えるでしょう。まともな学生、将来を真剣に考えている学生は、そんな場所に出会いや充実した時間など、求めません。全力で堕落を競い合うサークルに所属して出会いがあったとしても、一過性の興奮に過ぎないでしょう。だから、FUNの1年目は徹底的に厳しく運営したのです。酒もなく、遊びもなく、とにかく定めた活動をやり抜き、結果を出すことにのみ集中しました。FUNは、学生の貴重な時間を預かる「ファンドマネージャー」のようなサークルですから、預かった時間には確実に配当を出さねばなりません。極端に言えば、安田君がよく言っていたように「人生を預かるサークル」です。ロケットが大気圏を突き破るまでに、燃料の大半を使い切ってブースターを燃焼させ、あとは「慣性飛行」に切り替えるように、FUNもまた、1年目は「大気圏突破」がテーマでした。後輩たちがマネしたくなる先輩の姿、後輩たちが受け継ぎたくなる伝統、後輩たちが超えたくなる実績、後輩たちが自慢したくなる活動…それを残すことが、安田君の役割だったわけです。幸い、このビジョンは一つ下の世代に大月さん、牛尾さんという有望な後輩を得たことで確実に引き継がれ、隈本さんや本田さん、袈裟丸さんたちの世代には、全学年、5大学にまで活動が広がりました。これは、マクドナルドの展開とすごく似ていますよね。今では「入部させて下さい」と見学した学生さんの方が頭を下げて頼み、それを部員が「ぜひ一緒に頑張りましょう」と笑顔で迎える循環が定着しています。FUNにはよく、他のサークルから運営に関する相談が寄せられます。勢いよく始めてもすぐにマンネリ化し、定着が悪くなり、活動が形骸化してしまう…という悩みを抱える学生さんも多いようです。しかし、新しくサークルを作るような学生さんは、たとえFUNの学生でなくても僕は応援したくなります。とにかく、挑戦する若者には何でも提供したいというのが社会人としての本心です。ということで、色々話を聞いてみると…。「やっぱりビラがいいですかね~。ネットでの告知も考えてるんですが。でも、やっぱり最初はプレゼント付きのイベントっすかね」といった言葉が返ってきます。あらあら…集まらないことに腰が引けて、頭の中が既に「値下げウイルス」に感染しかけているようです。そんな時、「集める」とか考えている時点で既にアウトだよ、と僕は言うことにしています。インターネットを使おうが、複雑なプログラムが組めようが、熱意がなくては価値もゼロです。今目の前にいる仲間に、一体どれだけの誠意と努力を尽くしているのか。「人が増えたら○○できるのに」と考えるなら今すぐやれ、リーダーが臆病な表情を見せたらダメだ…などとアドバイスし、最後に「人は集めるんじゃない。集まるものだ。本気で熱中している人を見ると、人は集まらずにはいられなくなる。もし集まらずに集め方を考えているなら、自分の努力が足りないと思った方がいい」と言います。積極的な学生が集まるサークルも魅力的ですが、ダラダラしていた学生が生まれ変わるサークルもまた、素晴らしいものです。今のFUNにはその両方があります。「集める」なんて考えなかったからでしょう。