意外な「職」の精神
今日は夕方、こっそり釣り具屋さんに行ってきた。博多駅前の「フィッシングワールド」だ。品揃えが豊富で、安いのに驚いた。また、高いのはとんでもなく高かった。そんな中で私が捜し求めたのは、あるルアーだった。私の家の近くは釣具屋がなく、夜に行く時は、エサを買うことができない。そんな時はルアーで釣ろうと、2、3個買いに行ったのだ。先日、博多埠頭である釣り人に会った時、「ラパラとかいいんじゃないですか?」という話を聞いた。「ラパラ?」それは、ブランドの名前だろうか。それとも、会社の名前だろうか。「それが、ルアーの名前なんですか?」…釣り人は、私の素人ぶりに驚いたような顔をして、「そうですよ。アングラーなら、みんな知ってんじゃないっすか」と答えてくれた。ラパラ、ラパラ…。「CD5とか、CD7って言ったら、ルアーの定番ですよ」なんと。この世界でも、車のGT-Rやハチロク、パソコンの98(古い)、携帯のN501のように、「型番呼び」があるのか…。経済誌の記者時代、新たなネタに出会った時のような予感を胸に、私はひっそり、ラパラを探してみた。…あった。「RaPaLa CD-7」。しかし、1,150円もする。素人にしては、ちょっと高いルアーだ。CDとは、どうやら「カウントダウン」の意味らしく、なんと、着水して7秒くらいたつと、適切なタナ(魚の泳層)に沈むらしい。しゃれた名前だ。そんなタイミングを商品名にするなんて。どこの会社が作っているんだろうか。"The Original Finnish Minnow""Assembled in Estonia"「フィンランド発の小魚」?「エストニア製」?ロッド、リール、仕掛け…全てを中国製が支配するこの世界に、よもや北欧の国々の製品があるとは。フィンランドといえば、ノキアかリナックスで、私のような歴史マニアからすれば、エストニアは、日露戦争でバルチック艦隊が出港したリバウの港しか思い出さない。別に、釣具屋で歴史やIT企業のことを考えなくてもよいのだが、ついつい、そういう連想に偏ってしまう。しかし、面白いルアーだ。よし、一つ買ってみよう。帰って早速、ラパラについて調べてみると、なんとも興味深い創業史を知ることができた。以下「rapala.com」より。It all began with a hungry Finnish guy and a carving knife. It was the 1930s when a simple fisherman made an observation of simple genius: big fish eat little fish, especially little fish that are wounded. So begins the greatest fishing story ever told. …なるほど、感動的な書き方だ。「大きな魚は小さな魚、しかも弱った小魚を食べる」。その単純なひらめきが、釣り史に残る偉大な物語の始まりとなったようだ。As Lauri Rapala fished the waters of Finland’s Lake Päijänne, he quietly rowed and watched. And what he saw was how hungry predator fish would dart into a school of minnows and attack the one that swam with a slightly off-center wobble. Over and over again. Lauri realized that if he could craft a lure that mimicked the movements of a wounded minnow, he could catch more fish, earn more money, and not spend time constantly baiting lines. So Lauri set to work. He whittled. Carved. And shaved. Eventually a lure began to take shape. Using a shoemaker’s knife and some sandpaper, he created his first successful lure from cork in 1936. Tinfoil from chocolate bars formed the lure’s outer surface. Melted photographic negatives formed the protective coating. But most importantly, it perfectly imitated the action of a wounded minnow. Legend has it that Lauri sometimes caught 600 pounds of fish a day with that new lure. And as word of his abundant catches spread, the lure’s reputation grew. The rest, as they say, is history. That first lure was the forefather to the lure that has helped more fishermen experience the thrill of more big fish than any other: the legendary Original Floating Rapala. 同社の「history」にもあるように、農業と漁業によって生活を営んでいたラウリ・ラパラは、生活が窮乏するほど苦しみ、ついに、エサを買うほどのお金さえ事欠くようになった。そんなラウリは、半ばやけっぱちになって、コルクの木を魚の形に削り、光沢や装飾を施して、湖に投げてみた。「大きな魚は、小さな魚を食べるはずだ!」という素朴な着想から、何度も何度もやってみた。…すると、釣れた!ラウリは改善を加え続け、最後はミノー、つまり小魚の水中での動きを完全に再現するルアーを作り上げ、記録的な釣果を叩きだすようになった。…なるほど、彼は魚を釣ろうとして、とてつもない大物、つまりビッグビジネスを釣り上げた伝説の男ということだ。熱い。熱すぎる。ルアーにここまでの物語があったとは。だからフィンランド製で、エストニアで製作されていたのか。わが国にも昔から、イカ釣り用の疑似餌である「餌木(えぎ)」があり、ここ最近は「エギング」と呼ばれているようだが、北欧のルアーもまた、漁師の切実な悩みと卓抜な着想から生まれたものだった。今では「ラパラ」といえば、それだけでルアーを代表する社名となり、世界中の会社が同社製品を参考に、ルアーの開発に励んでいるようだ。すごい会社もあったものである。まさか、博多埠頭の釣り人から、こんなすごい会社のルアーを紹介されていたとは、思ってもいなかった。まだまだ私には使いこなせないルアーだろうが、大事に取っておいて、少しずつ練習していきたいものだ。職を極めれば全ての本質が見えてくる。ラパラ。すごい会社だと感動した。しかし素人の私は、明日もエサ釣りだ。ちなみにこれ(↑)は、先日、脇山さんが那珂川河口で釣ったセイゴの写真だ。先週の釣りは、隈本塾長と増田君と行ったのだが、こんな感じだった。百道浜のおしゃれな景色も、釣りで行けばまた違って見えて面白い。この日は、70~80センチのエイが泳いでいるのが橋から見えて、本当にびっくりした。あんなに巨大な魚が間近にいるのは、初めて見た。さて、明日は何が釣れるだろうか。大蔵さんは先週、ボラを釣ったそうだ。私はスズキでも釣りたいものだ。