私は自分が不幸な人間だとは決して思いません。
トータル的に見ると、充分に幸せだったと自覚しています。

でも、ここ数年間は、私の人生の中では相対的に不幸だったのだな、と
思わざるを得ません。

というのも、ここへ来て、私は非常に落ち着きを取りもどし、
家の中をキレイに片付ける、とか、自分の持ち物を把握する、とか
たいへん基本的なことができるようになってきたからです。

私は単細胞なので、ひとつのことに集中しやすいのですね、
自分で認識しているよりも。

そして中庸を保ちにくい。

けっこう要領がよく、意外に敵を作らないほうですので、
バランス感覚がいい、と思われがちですが、ところがどっこい、
私ほど中庸を欠く人間もめったにいないでしょう。

これは先ほど触れた「単細胞でひとつことに集中しやすい」という
性質とリンクするものと思われます。

そしていったんバランスがくずれると、生活そのものに直接
影響してしまうのです。

端的に言いますと、生活全般が投げやりになってしまう。

食べることも、整理整頓も、家計管理も、家庭内環境の把握も
すべてどうでもよくなるのです。


30代後半から仕事量を増やすことに躍起になり、さらには国家試験
合格を目標にしたときもそうでした。
あの時期も、あれほど没頭しなければいられなかったということは
私の人生においては相対的に不幸だったのでしょう。


ですが、ここ数年の不幸にはかないません。

自分の発病はそれほど苦にしていないので、数のうちにはカウント
しないとして、二親の病気と、父の死、それになんといっても
ムスコの高校不適応とプチ不登校は、非常に苦しいものでした。

自分ではそれでもうまく気分転換をしているつもりでいましたが、
どうしてどうして、そんな簡単に気持ちなんて切り替わるもの
ではありません。

少なくとも、日々の生活を楽しむということからは、まったく
遠ざかっていたことが、今になって本当によくわかります。


心配していた浪人生活ですが、先日も書いたように、本人は
思いのほか意欲的に取り組んでいるようです。

ようやく勉強が自分のためのものと自覚できるようになったこと、
少しずつ学力がついていくことで、達成感が味わえるように
なってきたためでしょう。

ここでいう「勉強」は、一例にすぎません。
ヒロキは大学進学を志望しているので勉強にスポットを当てていますが、
仕事でもサークル活動でも、ボランティアでもスポーツでも、
あるいは人を愛するることでもなんでもいいと思うのです。

とにかく「自覚的に物事に取り組むこと」が大切だということ、
というか、それ以外に自分の生きる道なんて見えてきはしないのだと
いうことを、私はどうしてもわが子にわかってほしかったのです。


逆に言いますと、私がここ数年、日常生活なんかどうでもいいと
心の中から閉め出せるほどに（相対的に）不幸だったのは、まさに
わが子が、どの道も閉ざされているいう考えしかもてないことで
苦しんでいる様子を、見つめ続けたためなのかもしれません。


ヘンな例になってしまいますが、恥をしのんで告白しましょう。

私はマンション住まいですが、玄関前の傘立てに、自分の傘を
立てかけたままにしていました。
今年の春の強風で、私は何度もその傘立てが倒され、自分の
傘が、開放廊下に吹き飛ばされているのを目撃しました。

でもそれを元に戻し、傘を自分の家の玄関に入れようという
考えが少しも浮かばなかったのです。
ムスコの不登校に心をとらわれていた私には、傘がどうなろうが、
どうでもよかったのでした。


また、マイ･ブライス、柏木文香の「ブーツ紛失事件」というのも
あります。

文香にブーツをはかせたまま、リビングのカウンターに置きっぱなし
にしていたところ、片方のブーツが脱げてどこかに転がり落ちた
らしいのです。

でもそんなことも私にはどうでもよかった。
あの時点で、ちょっと探せば出てきたのかもしれません。
だけど私にはそんな考えは、頭に浮かんではきませんでした。

まさに、日常生活のすべてが「上の空」だったのでしょう。


オクテなムスコが、大学受験を自分の問題としてとらえられる
ようになったことが、手にとるようにわかる今、私は非常に
安堵しています。


明日は軍事政策の原稿まとめをしなければ。

どんな一日になるのか、楽しみです。