1616.「アヤ。下着はつけているんだろうな」 この状況で何を聞いてくるんでしょう。 「予備があるならください」 「威張るな」 ずるっとアヤを下ろしました。 巻いたタオルの隙間からお尻がちら見えしています。 気づいてあわてて引張ります。 「・・志信さん?」 「アヤを抱いたままでは撃てない」 言いながら、足元のふらつくアヤの背中を支えます。 そして髪が触れるほどの近さで誓いを立てます。 「護らせろ」 アヤはわずかに頷いて志信さんの胸に顔を埋めました。 志信さんがねじこんでいたピストルの照準を静かに合わせます。 銃身の先の克己は顎を押さえたまま志信さんを睨んでいます。 その空気に男たちが一斉に道を開けました。「亡霊のようだ」 志信さんが、とうとう裁きの一撃を放ちました。 射撃の反動がガクンとアヤの体にも響きます。 揺れる体を志信さんの左手がぐっと支えます。 「・・臭い!」 アヤが硝煙の臭いを拒絶します。煙草も嫌がる子です。 臭くて耐えられないのでしょう。 火薬だけじゃなくて鉛のような臭いも混じっていますから。 「そのまま・・じっとしていなさい。顔を上げるな」 志信さんがアヤをきつく抱き寄せます。 窒息させるようですが。 「う~~!」 アヤがむせています。 喉も痛くなりました、苦しくて目に涙がにじみます。 「そのまま目を閉じろ」 言われなくてもむせたせいで涙がにじんだ目です、見せたくない。 俯いたまま目を閉じます。 「あとは頼めるか」 志信さんの低い声が聞えました。 「アヤを大叔父に預けてくる」 「え」 アヤが反発しかけましたが 「いいから寝ていろ」 抱き上げられて廊下に出ました。 歩きながら「本当に寝たのか?」 「目を瞑っていただけですよ」 アヤが目を開けると志信さんの心配そうな顔が見えました。 「怖かったか」 「いいえ。・・俺、歩けますから下ろしてください」 「たまには抱かせろ」 「いつもでしょう」 アヤがむっとして言い返すと苦笑します。 「この格好で大叔父のところに行きたくないです」 「私だっていやだ。風呂場に行くからそこで服を着なさい」 別棟のお風呂場に、脱いだアヤの(正確には要の)スーツがそのまま置いてありました。 「さっさと着ろ」 「言われなくても」 アヤはするりと志信さんの上着を脱ぐと「はい。ありがとうございました」 そっけなく手渡してシャツを羽織ります。 ボタンをかけながら気になっていたことを聞きました。 「志信さん、さっき・・何を撃ったんですか」 「舎弟」 直球の応えでした。 「ころ・・」 「命はとっていない。懲役に服すわけにはいかないからな」 「・・塾の先生ですからね~」 アヤは安心しました。 克己に対して情はありませんが、大事なひとが罪に問われるのはごめんです。 「今頃救急病棟だろうけど」 なんですって? 「この世界は取引があるから大丈夫」 取引い? 「そのために地元のお祭りでは子供の相手をしているんだ」 アヤはめまいがしました。 「ヤクザの世界で生きていけません」 「そんなに早く結論を出すな」 「無理です」 アヤが下着をはきながら怒っています。 「大体、今日は挨拶と聞いてきただけなのに。どうしてこんな・・」 腿をあげて、よからぬものを見つけました。 跡が残っていました。 薄い黄色に変色した精液が、糸状にべったりとくっついています。 「・・ちょっと洗います」 「何を」 志信さんは気づいていないようです。 「いいから!」 アヤが風呂に駆け出しました。 これは洗わないと・・匂うし、かゆくなりそうな気がするのは考えすぎ? 露天風呂なのでシャワーがありません。 桶をつかむとお湯をくんで、大慌てでタオルを濡らします。 がばっとしゃがみこんで、シャツを濡らさないように裾をまくります。 タオルを固くぎゅうううと絞って、腿を擦りました。 「なにやってんだろう」 アヤは自分が情けなくなりました。 どうして拒絶できなかったのか。 いつもとは違う誘われ方、嬲り方に溺れてしまいました。 志信さんとのセックスに飽きたわけでもないのに。 刺激が欲しかったわけでも無いのに。 「こんなこと知られたくない、」 アヤは独り言を呟きます。 →→泣くな。17話は幸せになれそうかも ジャンル別一覧
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