フレッド・アステア自伝『Steps in Time』(青土社)
「フレッド・アステア」という名前を聞いてピンとくる方は、どれくらいいるでしょうか。かつて、大ヒット映画を連発した方なのですが、おそらく、誰だか分からないと思います。私の世代はもちろん、私の親の世代も、そしておそらく祖父母の世代も。なにせ、彼の映画の全盛期は、1930年代。1957年に、『パリの恋人』で、50歳代後半の年で、若きオードリーヘップバーンの相手役をつとめた、あのおじさん。1970年代にシリーズで出た『ザッツエンターテイメント』で進行役とつとめ、「ザッツエンターテ~イ~メン~ト」と、歌って踊る、あの、おじいさん。フレッド・アステアは、今から100年以上前、1899年にアメリカで生まれ、17歳でブロードウェイ進出、20歳代で名声を確立し、30歳代からハリウッドへ。それまでのハリウッドのミュージカルは、大勢で踊るスタイルが主流だったそうですが、一人で大画面で、シルクハットをかぶり、ステッキを持って、タップダンスを披露するスタイルを確立しました。映画評論家の故淀川長治さんは、彼を「ダンスの神様」を呼んだそうです。私は、大学1年生の時だったと思いますが、映画研究をしていた米国人の先生の授業で、アステアの映画と出会い、すっかり魅了されてしまいました。それから、見たこと見たこと。ハリウッドミュージカル。更に、ハリウッドの、他のクラシック映画にも興味を持ち、『ローマの休日』やら『風と共に去りぬ』やら『戦争と平和』やら、ありとあらゆる、名作といわれるものを借りてきて見ました。大学2年生の時は、約半年にわたって、週5本ずつ、コンスタントに見ましたから、その時だけでも100本以上です。当時レンタルショップGEOでは、レンタル料が5本1,000円と格安だったんです。止まらないんですよね。興味が沸くと。ただこれは、旅と同じように、国籍、世代問わず、色々な方と共感を持つのに役立っています。また、自分の人生で決断を迫られた時、超えられないような壁にぶつかった時、色々な作品を見た経験が、意外と活かせられるものです。突拍子もない角度から道を見つけられるものです。このフレッド・アステア自伝『Steps in Time』は、彼の映画が好きな方でしたら、絶対に、気に入るものだと思いますね。私は、本の中で、自伝というジャンルが一番好きです。自分のことは、自分が一番知っているわけですし、表現の仕方からも、その人の人柄が伝わってきますね。彼は、自伝の最後をこのような言葉でしめています。ダンスの奥義について色々と質問されることに対して、-わたしはただ、踊るだけだ。-生きることと、仕事でのダンスが一体化しているんですね。こういう生き方を目指したいものです。