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行きかふ人も又

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2006.10.19
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カテゴリ:日本映画
  大学教授の青地(藤田)と元同僚の友人中砂(原田)は旅先で、芸者・小稲(大谷)に会う。一年後、結婚したという中砂の家を訪ねた青地は、その妻・園が小稲に瓜二つであることに驚く……。狂気にとり憑かれた男女を幻想的に描いた傑作。

  清順美学というものに圧倒された、ありとあらゆる種の美が詰まった作品でした。幻想的で艶っぽく、2時間半まったく飽きず、想像以上にたのしかった。
はたして、あの夢のような結末は何を意味していたのか、掴みきれない世界に最後には放り出されたみたいだけれど。

圧倒的な映像の説得力は、黒澤作品から感じたものと似ているけれど、とにかく何処もかしこも美しく鮮烈で迫りくるパワーにドキドキしました。映画のほうから「見せてやる」と言われてるみたいに、主導権は完全に作品の側にあり、見せていただいているみたい。

ツィゴイネルワイゼン  ツィゴイネルワイゼン
「中砂の屋敷 青地と蒟蒻を千切る妻・園」      「青地の妻 彼女もまた変わり者」

真面目で温厚な青地と、放浪の身である野性的な中砂は、ふたりはおなじドイツ語教授だった仲。
ある時、結婚したという中砂の家を訪ねた青地は、その妻が、一年前にふたりが旅先で出会った芸者・小稲にそっくりであることに驚くのでした。
奔放で変わり者の中砂は妻のいる身でありながら、瓜二つの芸者とも密通を続け、そして青地の留守にその妻にまで手を掛けるのです――
彼が求めているものは、どこまでも美しいもの。肉体を越えた骨の美しさであり、生と死を越えた永遠の美であったのかもしれません。

愛されているか分からず女たちは狂おしい想いをしますが、中砂も同じく、求めるものが得られずもがきながら放浪を続けているようにも見え、形だけじゃない魂の求めるものに突き進む登場人物の鬱屈した叫びが聞こえるよう。
後半、旅先で突然死ぬ中砂に、誰もが衝撃を隠せません。残された者は幻を見、彼亡き後も翻弄され続けるのです。
細い背を丸めながら友の妄想や幻想に振り回される。そして中砂を愛した妻や小稲をも狂わせていく。


ブルジョアな生活に入り込む幻、余裕から生まれる欲望や願望は、恵まれた暮らしの中にこそ潜んでいるのかもしれません。庶民から切り離された所にある物語は、漱石を読んでからかますます惹かれるようになりました。
鈴の音、蒟蒻を千切る音、劣化したレコードの音。映像だけでなく、音にも情感をいっぱいに感じました。
多くある食事シーンは、性描写に負けない存在感。食べることから連想される欲望を感じます。
あからさまな描写はほとんどないのにエロティックで、だけどプラトニックでもある不思議。
男と女が深く愛し合う姿。それは行き違いの愛であり倒錯した愛であっても、魂が震える音となって聴こえるようでした。

ツィゴイネルワイゼン


岩肌の冷たさを感じるような情緒ある風景は、中砂の屋敷へと続く道。自然の中にある日本の美がいっぱい。
西洋と和が合わさったそれぞれの屋敷の装飾・大道具・小道具、どれもが絵になる美しさで、そこに住みたいと思うほど、設えられたもの達が素敵でした。
タイトル「ツィゴイネルワイゼン」は作曲家サラサーテが作曲したヴァイオリン曲のタイトル。ドイツ語でジプシーの歌というのだそうです。


野獣のような中砂を演じたワイルドな原田芳雄と、妻と芸者を一人二役で演じた大谷直子が妖艶で素敵でした。
平凡な青地を演じる藤田敏八の、淡々とした語りも魅力的で、非現実の世界に彼の存在は安心感を与えてくれるようでした。ただし平凡さが一番怖い時もある――
彼だけはまともだったのか否か。彼も幻想に取り憑かれてしまったかもしれないラストがただならぬ余韻を残していくのでした。





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監督  鈴木清順
製作  荒戸源次郎
脚本  田中陽造
音楽  河内紀  
出演  原田芳雄  藤田敏八  大谷直子  大楠道代
     麿赤兒  真喜志きさ子  樹木希林  木村有希






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Last updated  2012.12.21 22:57:57
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