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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2007/09/11
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カテゴリ:生活

 山や川に行くと、石が気になる。
 気になって眺めているうち、たくさんの石のなかから、とっても気になる石がみつかって、またじっと見る。拾って、てのひらにのせ、感触をたしかめる。
 そんな自分を、このごろ「石泥棒」かもしれないと、思いはじめている。
 自然界の石には、ひとつひとつ存在理由があり、それより前に石が生じた理由もあるのだと思う。こういう石を、持ってきてしまうのは、いけないじゃないだろうか。
「ね、石って、山や川から持って来ちゃっても、いいもの?」
 そう友だちに尋ねると、たいてい、
「少しならいいんじゃない?」
 という答え。
「石、拾うとき、罪の意識におののかない?」
 の質問には、
「おののかないよ。拾わないもの」
 という答え。
 そうか、みんなはあんまり拾わないのね。そこで、1つめの質問の答え:「少しならいいんじゃない?」を頼みとし、このごろは、いちどきに1個だけいただくようにしている。



 玄関の火打ち石。
 正確には、火打ち石のはたらきをする石ころだ。これは、もう15年ほど前に伊豆・今井浜の海岸で拾ったもの。
 玄関から、家の者たちが出かけるとき——訪ねてきてくれたひとが帰るときにも、つい——「いってらっしゃい」と言いながら、肩先でふたつの石を打ち合わせる。夫も子どもも、これを「かちかち」と呼び、誰かが出かけようとするとき、「わたしが、かちかちするね」などとと言ったりする。
 かちかちだなんて。かちかち山みたいだ。
 いまでも、職人、芸人、あるいは危険な仕事に就くひとびとのおかみさんが、火打ち石の切り火で送りだす習慣が生きているという。相手の無事は、祈るほか手だてはないが、出がけに、火打ち石で威勢よく送りだすというのは、そこから1歩、前に踏みだす行為のような気がする。相手のためにできることの、ぎりぎりの線まで。 



 さて、約1年前、3階建ての、縦にひょろ長いこの家に越してきたとき、この「かちかち」に変化が生じた。誰かが出かける気配を追って、2階(台所も居間も、わたしの部屋も、みんな2階にある)から駆け降りても、「まだ行かない、ちょっと髪とかしてから」「電話、1本かけてから」など、タイミングがずれるのだ。そのたび、2階に戻り、また駆け降りて……。運動にはなるかもしれないが、わたしには、途切れさせたくない仕事だってある。
 そこで、昨年、千葉県を旅したとき、拾った石を2階用の火打ち石とすることにした。2階の居間のあたりで「いってらっしゃい」と言い、かちかちする。インチキのようだが、インチキでもなんでも、かちかちやらないことには落ち着かなくなってしまったのだから、仕方ない。



Photo





玄関で、子どもを送りだす。かちかち。




1a





これが、玄関の火打ち石です。
長年、かちかちやってたら、
少し、やせてきました。




2



2階の、火打ち石。
居間の入口の、ピアノの上に置いてあります。




Photo_2





レースのカーテンが、風でめくれないように、
重石としてカーテンの裾に石ころを
入れています。







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最終更新日  2007/09/11 10:00:00 AM
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