748101 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

サイド自由欄


profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

カレンダー

バックナンバー

2024/06
2024/05
2024/04
2024/03
2024/02

カテゴリ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2007/09/21
XML
カテゴリ:生活

 けんちゃんがうちにやってきたのは、5年前のクリスマスだった。
 サンタクロースに手をひかれて、きた。



 けんちゃんってのは、食器洗い乾燥機。
 夫が、クリスマスにプレゼントしてくれたのだ。あと片づけを手伝ってくれる手をひとつ贈られたようで、とてもうれしかったが、「またか」とみじかくため息もつく。
 夫から、初めて贈られた誕生日プレゼントは、「かつおぶしけずり」だった。木屋製の、じつにいい「かつおぶしけずり」だったが、わたしはおおいに面食らった。なにせ、初めての誕生日プレゼントだ。小さなアクセサリーとか、ハンドバックとか、なんというかもうちょっと甘美なものでもいいんじゃないか、とね。
 つぎの誕生日には、前からほしかった風変わりな植木鉢をもらった。
 そのつぎの年は……、まあ、いいや。
 この話を友だちにうち明けると、「そりゃ、ちょっとやだね」というひとと、「いいじゃない、実直な品。へんてこなアクセサリーやスカーフもらったりしたら、目も当てられないわよ」というひとと、意見はふたつに割れる。



 けんちゃん。
 家につくなり、彼は、どんどんはたらいてくれた。
 食事のあとにゆとりが生まれたような気がして、うれしかった。しかし、それにも慣れると、「洗い上がったら、それぞれ、自分でけんちゃんから出て、食器棚の定位置にもどってくれるといいんだけどな、と思うようになったりする。いやはや感謝知らずの女である。
 けんちゃんの仕事がすみ、わたしが洗い上がった食器をとり出して片づけるまでは、けんちゃんには何も入れられない。ここのところが、不都合といえば、ちょっと不都合だ。
 あるとき。
 システムキッチンのパンフレットを見るともなく見ていた。すると、食器洗い乾燥機が上下に2台ついたキッチンの写真があるではないか。いつでも洗い物を引き受けられるシステムなんだそうだ。貧乏性のわたしは、ちょっと、ぜいたく過ぎやしないか、と思う。
 とにかく、けんちゃんのおかげで、わたしはやっぱりずいぶん楽をさせてもらっている。



 どうしてけんちゃんという名前か、って? 
 まだけんちゃんの影もないころ、そうして、娘たちがいまより5、6歳若かったころのこと。
 晩ごはんのあと、食器を洗いながら、ふと、
(娘たちのうちの誰かに彼氏ができたら、食器洗いを手伝ってくれたりするだろうか)
 と思いつき、それを入口に、妄想の森へと歩みだす。
(食器は洗わないけど、食器を洗うおかあさんのそばで、歌をうたいますよ、なんていうのもいいねえ。くくくくく)
 そこで、ラジオから流れてきたのが、「平井堅」うたう「大きな古時計」。
(ああ。手伝ってくれなくっても、こんなふうに近くで歌ってくれたら、うれしいかも……)



 しかし、あと片づけを手伝ってくれそうな彼氏も、わたしの横で歌ってくれそうな彼氏もなかなか登場しないうちに、食器洗い乾燥機がやってきた。
 かの日、食器を洗いながらうっとり聴きほれた「平井堅」の歌声にちなんで、「けんちゃん」と命名。



 けんちゃん、毎日、ありがとうね。きょうは、わたしが何か、歌ってあげるよ。



Photo



けんちゃんです。
けんちゃんの前には、けんちゃん稼働中に出た「使用済み食器」を、
手で洗ってのせておく小さな棚があります。
何もかも、けんちゃんに洗てもらおうしないで、
このごろは、わたしも洗うんです。








Photo_2
けんちゃんの下(流しの奥)には、
手を洗うせっけん、金だわし、スポンジがいます。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007/09/21 10:00:00 AM
コメント(2) | コメントを書く


© Rakuten Group, Inc.