テーマ:本のある暮らし(3190)
カテゴリ:昭和恋々
「半七」の中でもとりわけ怖い「お化け師匠」の踊りの師匠が、蚊帳の中で蛇に首を 絞め殺され死んでいる様子がいま見てきたことのように、生々しく描かれていたのである。 実際、灯りの消えた部屋では、蚊帳の中で寝ているのが誰かよくわからないものだ。 もっと言えば、そこに寝ているのが、生きている体なのか、息のない体なのか、怖いと思うとそんなことまで心配になってくる。 だから蚊帳の外から、ささやくように声をかける。 すると青い薄闇に忍んだ自分の声が、髪をおどろに乱して死んだお化け師匠の、無念の声に思われて、 風呂上りの体が凍りつく。 そういうときに限って、生ぬるい風が吹いて、軒端の南部風鈴がチリンと一声鳴る。 いまの子に「半七捕物帳」を読ませても、ちっとも怖がらない。 夏の夜の青蚊帳も、大川端の柳も、虚無僧の尺八も知らないのである。 しかし私には、そうしたものがなくなった世の中は、結構なようで、 実はそれがいちばん怖いことのように思われるのだ。 「昭和恋々」久世光彦 ・・・・・ 蚊帳に入る時には、蚊帳の裾を持って、うちわでパタパタあおいで、蚊が中に入らないようにすばやく入る。 それでも中にいる蚊もいた。 血をたっぷり吸って、ヨタヨタと飛んでいたりした。 すると私たちは、容赦なくその蚊を叩き潰した。 手が蚊の血で、真っ赤になった。 自分の血を吸う蚊は、許せない。 叩き潰されても、しかたがない。 がしかし、蚊を食べる昆虫もいる。 蚊を食べる昆虫がまた鳥に食べられる。 その鳥を動物や大きな鳥が食べる・・・。 そういう意味からいえば、蚊もまた必要な生きものだ。 今は、蚊帳などいらなくなった。 その代わりに、他の昆虫や鳥や動物も減ってしまった・・・。 垂乳根たらちねの母が釣りたる青蚊帳(あおがや)を すがしといねつ たるみたれども 長塚節 ◎自然と人間が仲良く暮らしていたころの話です。 ★9月2日*9月がどんなに暑くても・・・ *UP ・・・・・・・・・・・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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