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私訳・源氏物語

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March 20, 2018
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カテゴリ:源氏物語
新春の光をご覧になるにつけましても、
春がお好きだったおん方をお思い出しになってはお心内が暗くなるばかりで、
悲しさは一向に改まるべくもありません。

二条院の御邸にはいつものように参賀の人々がお集まりになるのですが、
御気分が悪いとお取り繕いになって対面なさらず、
御簾の内にばかりおいでになります。

ただ兵部卿の宮がおいでになりますと「客間ではなく、うちとけた居間で」と、
ご対面になります。
「我が宿は 花もてはやす人もなし 何にか春の たづね来つらん

(我が家にはもう、春の花を愛でる人もございませんのに、
どうして春が訪れ給うたのでございましょう)」
宮は涙ぐみ給うて、

「香をとめて 来つるかひなくおほかたの 花のたよりと いひやなすべき

(紅梅の香りを求めて参りましたのにその甲斐もなく、
通り一遍のご挨拶とおっしゃるのでしょうか)」。

紅梅の下に歩出で給える宮のお姿はたいそう親しみ深く、

『この人以外、ご一緒に花を愛でることのできる人はいないであろうな』

とご覧になります。

花はちらほらと咲きかけた、
あるか無きかの風情あるうつくしさなのですけれども、
管弦のお遊びもなく、この春はいつもとはちがったことが多いのです。

紫の上に長い間お仕えしていた女房などは色の濃い喪服を着ながら、
年が改まりましても悲しみは改め難く、
嘆きを鎮める時もなく恋い慕い申し上げています。

殿はおん方々のお部屋にとんとお渡りにならず、
始終こちらにおいでになります。

年ごろ本気でお心を掛けていらしたわけではないにしても、
時々はお見捨てにはならない程度に目をかけていらした女房たちも、
このような寂しい独り寝になりましてからは、
反って他の者と同じようによそよそしくお扱いになられて、
夜のおん宿直などにも御帳台あたりからお引き離しになっておいでになります。
それでも物寂しさのままに、紫の上のことをお話しなさる折々もあります。

俗世間に未練のない仏道修行の御志が深くなるにつけても、
最後まで添い遂げられそうにもないような御方々とのことで
恨んでいらしたご様子が時々おありになったのをお思い出しになって、

『戯れの恋であれ、またやむを得ぬ事情があったにせよ、
どうしてあんな悲しい目に合わせ申したのか。

何事にも機転の利く御方であったから、私の心情をお見通しでいらしても、
徹底して嫉妬なさることはなかったが、
事の成り行きを不安に思いどんなに苦しまれたことか』

とお可哀そうで、後悔なさることがお胸からあふれそうになります。

今も近くにお仕えしている女房で当時の事情を知る者は、
亡き御方のお気持ちをそれとなくお話し申し上げることもあります。





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最終更新日  March 20, 2018 08:55:45 PM
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