「果つる底なき」 池井戸潤
池井戸潤さんの銀行もの。といえば、絶対におもしろくないわけがない。安心して手に取ることができますね。もちろんこの本もまた、引き込まれるおもしろさで、一日半ほどで読了しました。この作家のすごいところは、私のような経済オンチ、金融オンチでも、ちゃんと銀行内部の話が楽しめるところだと思います。もちろん、銀行やお金の動きが、全部完璧にわかったとは言いません。けど、だいたいの流れがわかり、それがものすごく大切かどうかぐらいはちゃんとわかります。そんなの当たり前と思われるかもしれませんが、それぐらいひどい経済オンチも世の中にはいっぱいいるんですよ。これは小説ですから、その世界(業界)のことを何も知らない人でも、おもしろいと感じさせなければならない。しかも、その業界にうんと詳しい人も、うんざりさせずに楽しませなければならない。この二つのことを、過不足なく満足させることって、すごく難しいと思います。これまで読んできたたくさんの本の中には、それができずに、やたら詳しく掘り下げた説明ばかりになってしまったり、この現象は、世界中で超優秀な研究者しかわからないのだ。難しいことはどうせわからないだろうから書かないのだ。などと、初めから説明を放棄してしまっている小説もありました。(これホントです)それに比べれば、これは本当に上質な小説です。同期入行の親友が巻き込まれた事件のために、銀行の暗部を暴こうとする若い行員。解決に近づいていくにつれて、目の前のもやもやが晴れていく感覚は、ミステリーの最高の楽しみですね。(優秀だった親友はもう帰ってこないという点だけが、とても残念ですが。)