眼科の救急疾患について
良く遭遇する症例
眼科救急で良く遭遇するのは目の痛みを訴える症例で、ほとんどは角膜障害です。その中でも代表的なのがコンタクトレンズ障害です。多くはコンタクトが古かったり、装用方法や手入れが不適切なケースです。コンタクト以外に外傷、打撲、喧嘩などによる場合もあります。点眼麻酔剤のベノキシール点眼薬を点眼して症状が治まれば、まず角膜障害と考えて良いと思います。(ただし角膜障害を悪化させますので、ベノキシールは絶対に処方しないで下さい) 処置としてはタリビッド眼軟膏を眼内に塗布し眼帯をした上で、翌日の眼科受診を勧めて下さい。ちなみに鎮痛剤の内服はあまり効きません。
次に良く遭遇するのが、金属を削る作業中に生じる鉄片などの角膜異物です。これはベノキシール点眼で表面麻酔をしてから異物針などで摘出しますが、非常に小さい異物なので眼科医でなければ難しいです。救急での処置としてはまずベノキシール点眼薬で痛みをとった上で異物の有無を肉眼で確認してください。異物があれば下記の方法で眼科受診を勧め、不可能であれば生食100ミリリットルで眼洗浄をした後に、タリビッド眼軟膏を眼内に塗布し眼帯をした上で翌日の眼科受診を勧めて下さい。
また、うわまぶたの裏の眼瞼結膜異物にも良く遭遇します。うわまぶたをひっくり返してみるとまぶたのふちから少し離れたところ(異物溝と呼ばれています)に引っかかっていることがほとんどであり、異物を除去することによって痛みはすぐに軽くなります。上眼瞼の翻転さえできれば比較的簡単な処置と言えますので、良かったら挑戦してみて下さい。無理そうならタリビッド眼軟膏を眼内に塗布し眼帯をした上で翌日の眼科受診を勧めて下さい。
眼科の緊急疾患とその処置法
次に眼科で緊急の処置が必要な疾患についてまとめておきます。それほど数は多くありません。下の3つに絞られると思います。
1.緑内障発作
正式には急性閉塞隅角緑内障といいます。中年以降の女性に多く、急激な眼痛または頭痛、吐き気、目の充血、視力低下が主症状です。頭痛を主に訴える場合もあるため、眼科以外で見逃され、CTスキャンなど頭部の検査を受けているうちに高度の視力障害を残すケースもありますので、注意が必要です。この疾患の可能性さえ頭に浮かんだら、診断は簡単です。目は明らかに充血していることが多いですし、器械で眼圧を測らなくても、まぶたの上から眼球を触ってみれば、片目が異常に硬い(=眼圧が高い)のが誰にでもわかります。また軽度の散瞳をしていることが多いので、ペンライトで照らした場合に対光反射が欠如していることも多いです。この場合は緊急の薬物治療とレーザー治療、場合によっては手術が必要ですので、少しでも緑内障発作を疑った場合は下記の手順に従って眼科医にコンサルトして下さい。
2.網膜中心動脈閉塞症
中高年に多く、片目の視力が急激にほとんどなくなります。一瞬にして症状が完成すること、視野全体が真っ暗になることが特徴です。原因は血栓(血液の塊)などが網膜中心動脈という細い動脈をつまらせてしまうために、網膜の血流が途絶してしまうことです。したがって、心房細動などの不整脈や、動脈の閉塞・炎症を持病とする方が多いです。症状が特徴的なので、問診のみで診断することができることも多い疾患です。
網膜は神経組織ですから、すぐに血流が戻れば視力も回復しますが、およそ20分もたつと回復が非常に難しくなります。したがって、この疾患の処置は一刻を争いますので、下記の手順に従って眼科医にコンサルトして下さい。
その場で出来る処置としては眼球マッサージがあります。これは目を圧迫して解除するという行為を数秒置きに繰り返すことによって血栓などを飛ばすものです。具体的には5秒目を圧迫し、5秒解放します。眼科医に連絡がつくまでの間、施行継続するようにお願い致します。またPaperbag rebreathing(いわゆるエアバック呼吸ですね)もお願い致します。これにより吸気中の二酸化炭素濃度が上るため血管が拡張して血流が戻りやすくなります。
その後の処置としては血栓溶解剤投与、眼圧下降剤投与、高圧酸素療法などがありますが、それらについては眼科医の指示に従って下さい。
3.アルカリ眼外傷
熱傷や酸による外傷に比べ、アルカリ外傷は予後が非常に悪いです。アルカリ物質(具体的には生石灰、セメント、パーマ液など)は組織への深達性が強いため、時間がたつと奥の方まで高度の障害をきたし、本来透明であるべき角膜が真っ白に濁ったり、まぶたが癒着して眼が開かなくなったりします。したがって、網膜中心動脈閉塞症と同様に一刻も早く処置をしなければなりません。この場合の緊急処置は簡単です。少しでも早く大量の水で目を洗うこと、これに尽きます。洗面器に水をはってその中で目をパチパチさせるなどというのでは足りません。水道の蛇口に目を近づけて流水で10-15分以上目を洗うように指示します。それと同時に下記の手順に従って眼科医にコンサルトして下さい。