ケモブレイン!!
化学療法後の脳構造変化をMRIスキャンがとらえる 化学療法を受けた乳癌生存者の脳構造の変化がMRIスキャンでとらえられた。これが患者が訴える症状である「ケモブレイン」の説明になりうる。 Zosia Chustecka Medscape Medical News 【11月27日】術後補助化学療法を受けている乳癌患者はしばしば、治療後に認知障害の症状、いわゆる「ケモブレイン」を訴える。核磁気共鳴画像(MRI)を用いた研究で、こうした患者における脳の変化が見つかり、術後補助化学療法が脳構造に影響を与えている可能性があることが判った。日本におけるこの研究成果は、『Cancer』11月27日号オンライン版に発表された。 この変化は化学療法の1年後に見られたが、3年後には見えなくなった。このことから「術後補助化学療法に関係する脳の容積変化は時間経過とともに良好に回復することが考えられる」と研究者らは述べている。 国立がんセンター東病院(千葉)の稲垣正俊, MD, PhDが率いる研究チームは、乳癌生存者の脳MRIスキャンデータを含むデータベースを利用した。化学療法(テガフール・ウラシル[UFT]、シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシル[5-FU])に曝露した患者と曝露しなかった患者との間で、手術から1年後以内に撮影した像と3年後以降に撮影した像を比較した。 1年後の像の比較では、化学療法に曝露した患者(n=51)の脳の部分的な容積が灰白質、白質ともに曝露しなかった患者(n=55)よりも小さかった。影響を受けていた脳の部位は前頭皮質、海馬傍回、楔前部であり、この3部位の容積は、注意/集中力および視覚記憶の指標と有意に相関していたと研究者は述べている。 3年後の像の比較では、化学療法に曝露した患者(n=73)と曝露しなかった患者(n=59)との間で、脳の部分的な容積に有意差が認められなかった。術後補助化学療法終了からこのMRIスキャンまでの経過時間は、平均して4.2年間であった。「術後補助化学療法に曝露した癌生存者で見られた部分的な脳構造の変化と認知障害は、時間経過とともに回復するようである」と研究者らは述べている。 この研究では、地方紙で募集した健常者についてもMRI脳スキャンを調べた。それによると、化学療法に曝露しなかった乳癌生存者のスキャンと比べて、部分的な脳容積に有意差が見られなかったことから、癌それ自体は脳に影響を与えていないと考えられる。 「今回の結果に基づき、補助化学療法は脳構造に対して一時的に影響する可能性があり、その変化は癌手術から3年後には回復することが想定される」と稲垣博士はMedscapeに対して語った。今回の研究では記憶機能はエンドポイントではなかったので測定していないが、ケモブレインの解明のためには今後の研究が必要であると同博士は言い添えている。大規模サンプルを対象にした詳細な縦断的対照試験が必要である。 Medscapeからの意見の求めに応じて、ロットマン研究所(カナダ、オンタリオ州トロント)のGordon Winocur, PhDは次のように語っている。「稲垣博士らの研究は、化学療法を受けている癌患者で頻繁に報告される記憶力と記憶関連の認知力喪失の理由を説明できる可能性がある脳構造の有意な変化が、化学療法でもたらされることを高解像度MRIにより明らかにしている点で非常に重要である」。 「この研究の結果は『ケモブレイン』と一般に言われる認知力の変化は、疾患と治療に伴うストレスの影響とは関係のない脳機能変化によるものである可能性があるということを更に証拠だてている」と、Winocur博士は述べている。 「重要なのは、今回の研究によって特定の認知機能過程の変化がそれに対応する脳の局在部位の変化と関連付けられたことである。特に興味深いのが海馬と前頭皮質の容積の減少が報告されている点である。この2つの領域は、(我々の研究を含めた)これまでの研究によって、化学療法に伴う認知障害との関連性が指摘されてきた」。 脳の変化が1年後には見られるが3年後には見られないという今回の知見は、この変化が恒久的ではないとみられる点で興味深い、とWinocur博士は述べている。しかし、著者らが引用した文献では、癌患者の長期の愁訴など相反する結果も見られる。化学療法薬が認知機能に及ぼす長期の影響に関しては、さらなる研究が明らかに必要である、と最後にWinocur博士は述べた。Cancer. Published online November 27, 2007.