能力のないあの世界で、その6
今までのお話はこちら→ その1 その2 その3 その4 その5※※※※※ウランが初めて図書館にやってきた時から、数日が経った。まだまだ人見知りが抜けないところもあるが、この図書館にやって来る人々と、少しずつ交流するようになった。ただ、ラルドがいないと、どうしても一人で交流するという事は出来ないようだ。そんなウランを、いつもラルドは支えていた。そんなある日の事だ。「小学校・・・か・・・」ウランは、キッズルームではなく360度に広がる本棚の方で、一冊の本を見つけた。その本は、小学校に通う生徒とのコミュニケーションのとり方が書かれた本だった。ウランはまだ5歳のため、学校どころか幼稚園に通ってなければならない年齢だった。だが、ウランは人と関わりを持ちたくなかったためか、施設にいた頃は幼稚園に通う事など、考えもしたくなかった。人と関わって、その関わった人間に裏切られるのが怖かった。自分の親のように、見捨てられるのが怖かった。だから、幼稚園に通う事を嫌った。今でも、幼稚園になど通うつもりはないし、ここで出会う人々と交流出来ればそれでいいと思っていた。交流といっても、ラルドがいなければ、他人と会話する事が出来ないのだから、交流と言っていいのかどうかわからないが。ウランは、その本を手に取ったものの、何か胸に刺さったものを抜くような感情で、本棚に戻した。その様を近くで見ていたラルドが、駆け寄ってきた。「どうしたの?なにか辛い事あった?」「あ、うぅん・・・何でもない・・・」「ウラン君はすぐ顔に出るからわかるよ?その本見て、辛い事思い出しちゃったんでしょ?」「・・・・・・」図星だった。ラルドは凄いな。いくらボクが何でもないって言っても、心の中にしまったこの感情を読み取る事が出来る。ラルドはエスパーか何かかな?何て一瞬思ったが、顔に出てしまっているのなら、読み取る事なんてラルドじゃなくても簡単に読み取れてしまうほどだったんだな、と自分の中で自己解決した。「その反応見ると、やっぱりって感じかな?」「はぁ・・・ラルドにはかなわないや・・・」「でも、どうしてその本を?」「そ、それは・・・」施設にいた頃は、学校や幼稚園など、人が大勢いる所になんか行くものかと、かたくなにその思考を曲げる事はなかった。でも、今はラルドと一緒にいる。図書館で出会う人達と、多少なりと交流が出来る。この分なら、学校へ行ける可能性もあるかも知れないと、少しだけだが考えていた。だが、やはり人への恐怖は捨てきれず、コミュニケーションのとり方の本を、本棚に戻してしまったのだ。「学校へ行きたいって思ったの?」「な、べ、別に・・・!」「隠さなくてもわかるよ!ぼくだって学校に行きたいし!もし、学校へ行けたなら、ウラン君と同じクラスがいいな!」「そ、そうだね・・・そのほうが落ち着く・・・」「行けるといいね!学校!今から楽しみだよ!」「う、うん・・・」今の年齢では行けないけれど、ラルドが一緒だしいつか行けたらいいな。でも、本当に行けるのかな・・・人が大勢いるだけで気絶するボクが、学校になんか行けるのかな・・・。そんな不安を持ちながらも、あれからウランは少しづつ、また少しずつと図書館で出会う人たちと交流出来るようになってきた。もちろん、読める本は片っ端方読んでいったし、同じような年齢の子供たちにわかりやすく説明する事もあった。その様子を、横目で見ていたファストは、きっともう大丈夫かも知れないと、とても安心しながら仕事を続けていた。もちろん、ウランのそばにずっといたラルドも、日を追うごとに成長していく姿を見て、喜びを隠せずにいた。そんなウランを、満面の笑みで眺めていると、「何?ボクの顔になにか付いてるの?」と、今まで人を避けていた事など忘れたかのように、怪訝な顔をして尋ねられてしまった。「うぅん!ウラン君がみんなと仲良く出来てぼくは今とっても嬉しいんだ!」「何言ってるの?そんなの普通じゃん」「うん!普通だね!」「ん~?変なラルド」そんな成長が見られた、その1年後。ウランが来てからそろそろ2年が経ちそうな頃、ラルドもファストも驚く発言をウランが発した。「お父さん、ボク、学校へ行きたい」あんなに人を信用せず、裏切られる事、突き放される事が怖かったあのウランが、学校へ行きたいと突然言いだしたのだ。確かに、ここ最近人との付き合いも慣れてきたし、人見知りの面影も薄れつつあったが、まさか自分から「学校へ行きたい」と発言してくるとは、2人は全く予想していなかった。その驚きから、ファストはハッとなり、ウランがもうひとつ驚く発言をした事に気がついた。それは、ウランがようやく「お父さん」と発言した事だった。出会ってから今の今まで「ファストさん」と呼んでいたのに、そんな事も忘れ「お父さん」と呼んでくれた。「やっと自分を父親だと認めてくれた」と思い、ファストは胸をなでおろした。「ん?どうしたのさ、2人とも。目を皿のようにしちゃってさ」「あ、いや、何でもない・・・しかし、どうして学校へ行きたいんだ?」そう尋ねられたウランは、顔をニッコリさせて、こう話す。「ボクってさ、もっといろんな人と会話すべきだと思うんだ。そりゃ、もちろん図書館で出会う人達と会話する事も勉強になったし、別に行かなくてもいいんだけど、でも、それじゃ物足りない。ボクにはコミュニケーションが足りないんだよ!自分と同年代の子達ともっと会話したり、友達を増やしたり、図書館では味わえないような勉強が学校でできるかもしれないんだ!だから、ボク、学校へ行きたいんだ!」そろそろ7歳になろうとしているような口ぶりではないが、幼い頃から本を読んでいたし、何よりずっと図書館で様々な本を読みあさったほどだ。これぐらい考えるのは妥当だろうと、ファストは思った。「そうか・・・まぁ、2人とも、あと数ヶ月すれば学校へ行ける年だからな!」その言葉を聞いて、ウランはより目を輝かせて、ラルドと一緒に喜んだ。「そのためには、まず手続きしないとな!」「まだ手続きしてなかったの!?もう!早くしてよ!!」「はいはい」二人に何も言わずに手続きをしてしまったら、もしかしたら怒られてしまうのではないかと思った。学校へ行くなんて嫌だと言われてしまうかもしれないと思った。だから、自分から学校へ行きたいと言うまで、ファストは小学校へ行くための手続きをする事はしなかった。ただ、その思いは胸の中にしまい、早く手続きをしろと駄々をこねるウランに、優しく対応を取った。その日、ちょうどファストの仕事が休みだったので、自宅から歩いていける学校を調べ、手続きを開始した。その学校に行けるかどうかの結果は、数日かかると言われたが、3日ぐらいで学校に行けるという通知が来た。これで数ヶ月後には晴れて小学生というわけだ。「楽しみだなぁ~!学校ってどんなところかな!?」「うーん・・・勉強するところかな?」「わかってるよそれぐらい!外観とかグラウンドとか校舎の中とかいろいろ!」まるで、マンションを見定めするセールスマンみたいに、ウランは喜々として発言した。「ははは、ウラン、君はコミュケーションの勉強がしたいんじゃなかったのかい?もちろん見た目は大事だけど、中身はもっと大事だと父さんはそう思うよ」「あ、そうだった・・・えへへ・・・」ファストのちょっとからかう発言に対し、ウランは恥ずかしそうに、しかし少し照れながら頭を掻いた。「本当に楽しみにしてるんだね、ウラン君」「もちろんだよ!じゃなきゃ、こんなに待ち遠しいことなんてないさ!」「うん!そうだね!ぼくも楽しみだよ!」笑顔が絶えない2人の会話に、ファストは優しく見つめ「ほらほら、明日から準備だから早く寝ような?」と優しい声色で2人をなだめた。それを聞いた、2人は同じような笑顔をして「はーい!」と元気良く返事をした。※※※※※ やぁああああああああっとかよ!!! 何日待った思ってるんだ、おい? 半年以上ですかね・・・。 まぁ、この世界のボクの人見知りがほぼなくなってるし、別に許すけどね。 次の更新はいつになるやら・・・。 言わんといてください。★やああああああああああああああああああああああああああああああああああああっと続きができた!次の話では、学校に行く話を書く事になると思います!!