こんぱすコーチの全方位日記

連日の鉄ネタですが、
東京と神奈川県を結ぶ京浜急行の蒲田駅付近立体化工事が進捗し、
今度の日曜日（５月16日）から上り線が高架化されることになりました。

蒲田駅を含む前後の駅間は、大田区のダウンタウンを線路が縦貫しており、
踏切も多く、安全上の支障が出ていました。
しかも蒲田から分岐する羽田空港行きの線路は、
蒲田駅を出発したとたんに交通量の多い国道15号（第一京浜）を
踏切で縦断していて、ピーク時には開かずの踏切となって
交通渋滞を起こす大きなネックになっていました。

線路が高架化されると、安全性が高まるのはもちろんですし、
交通渋滞の解消あるいは線路によって分断されていた街が一体化できるなど、
地元にとっては大きなメリットが享受できます。

ですので、鉄道の立体高架化工事の施主は
得てして地元の自治体がつとめ、
工事費用の負担も実は鉄道会社は少なめで、
大半は自治体が拠出するのが通常です。

－－前置きが長くなりました。ここからが本題です。

16日の京急蒲田駅付近の上り線立体化完成を機に、
同日からダイヤが改正され、
電車の運転本数が増えたり運転系統が大幅に変わることになりました。

その中に、品川方面から羽田空港へ向かう「エアポート快特」が
従来は蒲田駅に停車していたのを通過扱いとする、
という内容があります。

これによって空港までの到達時間を今よりも短縮されるため
都心方面からの利便性が高まります。

ところが地元・大田区の区長がこのダイヤに噛みつきました。
「利便性の高い優等列車が拠点駅である蒲田を通過するのは何ごとか。
地元の負担で恩恵を被っている京急は、あまりにも地元を軽視している」
というのがその理由。
「蒲田駅通過を実施するなら、立体化工事の費用を大田区は拠出しない」
という強硬論まで飛び出す始末。

この報道に接した僕は、「ちょっと待ってよ」と思わずつぶやきました。

各停と快特の違いは、蒲田－羽田空港間の３～４駅を停まるか通過するかで、
時間にしておそらく２～３分の違い。
言ってしまえばそれだけのことです。
蒲田から各停の羽田空港行きはエアポート快特以上の本数なので、
スピードはともかくフリークエンシーは確保されます。
何より京急にしてみれば、
圧倒的に多い都心方面から羽田空港への利用者の
利便性を確保するのが第一義であり、
その利用者に対して蒲田駅に停まる「心理的な遅さ」を払拭するのは
かねてよりの希望です。
今回の工事によってそれがようやくかなうわけで、
大田区長とは思惑がもともと相容れません。

しかし、蒲田駅からの利用者と都心からの利用者は
数の比較の上で圧倒的に後者に軍配が上がります。

すなわち、どう考えても京急側の施策の方が公共の利益にかないます。
大田区長の言い分は大田区民全員がそんなことを言ってるわけでもなく、
単なる区長ら一部区民の「わがまま」ととらえてもおかしくない。
さっきも書いたように大田区民に対しては、
立体化によって安全性が高まり、
交通渋滞による排ガス公害が緩和され、さらには街が一体化される、
という恩恵がもたらされるのであって、
これだけで十分に工事費用の負担に値します。

それが、優等列車が蒲田駅に停まらないだけの理由で、
しかもそれ自体がさほど極端に不利益をかこうこともないのに、
区長が激高する、という事態が僕にとっては信じられない。

自分たちの利益を図る前に、
もっと他者の利益を考える「思いやり」が
あっても良いと思いませんか？
しかもこのケースは、他者の利益が、より国民全体の利益に近いわけです。

他方、大田区長のこういう『我田引水』的な発想は、
実は過去から現在に至るまでいろんな場面で見られます。

戦前戦後において、地方の国会議員が票田を稼ぐために
まったく採算性が見込めない赤字ローカル線を次から次へと作っていきました。
これは数十年後の国鉄破綻につながっています。

茨城空港や静岡空港、
狭い阪神間に関空・伊丹・神戸と３つの空港と、
地方の空港建設が相次いだのも『我田引水』のたまもの。

こういう利己主義的な行動は、他者に迷惑を与え、
結果的に自己も破綻を来すことになります。

大田区長にも近江商人のスピリットである
『三方よし』の理念を会得していただきたいものです。


現代社会の倫理を考える（第3巻）