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カテゴリ:読書
『宣告』は、1975~78年に雑誌「新潮」に連載され、単行本にするときもほとんどいじらなかったそうです。
すなわち、『宣告』は齢40代後半の著作になります。 以下に、【この本からの引用】と【上記の感想】という形で、少々書いてみます。 【この本からの引用】 楠本他家雄と名付けられた39歳10箇月の男は、健康な体と精神をそなえながら死んでいく。 彼のこの世での持分である明るい時間が、ざっくりと切り取られ、あとは生れる前と同じような暗黒の時間が続く。 けれどもその暗黒は、生れる前とは決定的に違う面もある。 なぜなら、そこには知り合った死者が生きているからだ。 【上記の感想】 5月28日の日記に書きましたが、著者が『宣告』で最も力をこめて書いたのは、「虚無の存在論」でした。 「虚無の存在論」と言われてもわかりにくいのですが、上記の引用部分には、そのへんがよく出ているように思います。 私たちが生きている時間はいうまでもありませんが、生まれる前や死後の時間が間違いなく存在することを主張されています。 さらに別の箇所で、主人公(楠本他家雄)に次のように語らせています。 「たしかにこの壁や鉄格子や鉄扉は、何ものでもない。監獄という建物、制度、囚人と看守、それらも何ものでもない。もっとも大切な事実は、それら目に見えるものを支えている、目に見えないものの存在です。わたしは目に見えないものに向かって祈るのです」 ここに書かれている「目に見えないものの存在」が、「虚無の存在」を差しているのでしょう。 【この本からの引用】 楠本他家雄、昭和○年4月19日生れ。右の者、昭和4○年2月12日より5日以内に所定の方法により刑の執行をおこなうべし。法務大臣 【上記の感想】 上記の感想を書くにあたり、ウィキペディアを参照し、以下にまとめました。 刑事訴訟法476条に、「法務大臣が刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない」と規定されているそうです。 死刑囚に死刑宣告がくる時期の規定は、475条にあるようです。 475条によると、死刑は判決確定後、法務大臣の命令により6ヶ月以内に執行することが定められています。 しかし、再審の請求や恩赦の出願等の期間はこれに含めないことも定められており、死刑確定から執行までほとんどが数年から数十年もの間、平均では7年程度を要するのが現実のようです。 異例の早さで死刑が執行された池田小児童殺傷事件の死刑囚でも、約1年の時間を要したとのこと。 つまり、適切な言い方ではないかもしれませんが、死刑宣告には法務大臣の「気分」が占める割合が大きいように見受けられます。 例えば、2005年10月31日に就任した杉浦正健法務大臣は、就任時に「(死刑執行命令書に)私はサインしません」と異例の発言をされたそうですが、一時間後に撤回されたそうです。 また、大臣により様々であるが、法務省当局としては「死刑無し」の前例を出来る限り作らないように、大臣の任期終了前には相当な催促が行われると言われています。 『宣告』の記述によると、死刑はある時期集中的に行なわれる傾向があるようです、その時期を「あらし」と呼ぶそうです。 この「あらし」の原因が、大臣の任期終了前の催促によるのかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/06/04 05:19:54 PM
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