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眠れない夜のおつまみ

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2006/07/05
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カテゴリ:小説
バスルームから倫子は気分も幾分かサッパリして出てくると、留守電のメッセージを聞いた。
再生ボタンを押すと正志の落ち着いた声が聞こえて来る。

「もしもし。じゃ、お昼頃にそっちに迎えに行くから。それまでゆっくり待ってなよ。」

その優しい声を聞いて、最近の刺々しい心も丸くなっていくようだった。
正志は優しい。それは分かっているのに。刺激が欲しくなるのだろうか?安らぎに満ちた関係を求めていたはずなのに・・・。いざ手に入れてしまうと不満に思う自分が嫌になりそうだった。

嫌いではないのに・・・。
何か足りない?
いや、我侭なの?・・・。

どうしてなのか分からない気持ちをくだくだと考えながら上の空でボサノバを聴きながらボーっとしながらハーブティーを飲んでいるとチャイムが鳴った。
倫子はとっさに正志だと思い、ドアスコープで確認もせずにドアを開けた。
そこには、思った通り正志が立っていた。

「ちょっと早かったかな?」

と照れ笑いをしながらポリポリと右手で頭を掻くのは正志の癖の一つで倫子はよく見慣れている愛着を感じる仕草だ。
自然と倫子にも笑みがこぼれた。

「さっきはごめんね。入って。」
「いいよ。慣れてるから。」

そう笑いながら正志は言った。
正志はいつものように玄関から真っ直ぐ進んでリビングに入った。
「倫子の部屋っていつもきれいだよね。」
「あはは。正志のところに比べればね。」
倫子は正志にコーヒーを出す。
「さんきゅ。」
大学時代から倫子は親元を離れて一人暮らしをしている。今のマンションは就職してから引っ越してきた1LDK。一人暮らしには丁度いい広さだ。
2人掛けのベージュのソファーに木製のシンプルなテーブル。テーブルの上にはファッション誌が数冊積んである。下にはホワイトの肌触りの良い綿のカーペットが敷いてあり、窓にはパステルブルーのカーテンが掛けられている。21インチの薄型TV。TVボードの中にはお気に入りのDVD。薄型の白い隠し扉の付いた収納棚にはお気に入りのCDがぎっしり入っており、その棚の中央の開いた部分には黒いパナソニックのミニコンポが置かれている。そして、部屋の隅にはさりげなく観葉植物のパキラが置かれている。どちらかと言えばナチュラルだがシンプルで無駄の無い部屋という印象を初めて入った人は受けるだろう。
正志はソファーの窓側に近い位置に座ってコーヒーを啜った。
3階から窓の外を眺めると、隣の3軒の建売住宅が見える。その向こうには公園が、ずっと視線を伸ばしていくと高層マンションが立ち並び、視界はそこで途切れてしまう。
「あんなにマンション建ってなかったのにな。」
正志は独り言のようにつぶやいた。
そして、ゆっくり立ち上がると
「さて、今日はどこに出かけましょうか?どこへでもお供いたしますよ、お姫様。」
と満面の笑みで倫子に向かって言った。
正志という男は倫子がどんなにわがままを言っても許してくれる。
だから倫子も言いたい事が言えるし、十分に甘えることが出来るのだろう。
今朝の態度を改めて反省した倫子だった。
「今朝はごめんなさい。最近ちょっとおかしいのかもしれない。」
倫子が素直に謝ると正志はうつむいた倫子をそっと抱きしめた。
「らしくないよ。僕は倫子の我侭なんて何とも思っちゃいない。全部受け止めれる自信がある。だから大丈夫だよ。」
そんな優しい正志の腕の中で懐かしい心地よさを感じながら倫子は幸せを感じていた。


                                      <つづく>


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Last updated  2006/07/06 02:15:19 AM
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