カテゴリ:SS
お手紙SS=手紙の長さ→原稿用紙3枚のローカル通称。
最近更新サボっているのでリハビリします。 まずは1/3の第一話、イメージは黒で。 ※※※※※ 私の友達に難しいことを考える人がいます。 彼女の言葉はとても突拍子で、ときどきポカンと口を開けてただ聞き入るより仕方のない事態に陥ることもしばしばです。 その日も彼女は唐突に言い出しました。 「原寸大の自分ってわかる?」 答えて私は言いました。 「原寸大? 等身大とか実物大じゃないの?」 彼女はただただ肩を竦めています。 その仕草は、まるで私の言葉に重きを置いている風ではありませんでした。 何か見当外れなことを言ってしまったらしいので、仕方なくまた違う言葉を返しました。 「鏡を見れば?」 彼女は笑って言いました。 「いや鏡では駄目なんだ」 さて、と。 これはまた彼女のお得意のパターンだな、と私は気がつきました。 彼女との付き合いも長いので、つまりは「ただいまより講義を開始いたします」との前振りに違いありません。 私はありがたく彼女の講義を拝聴することにしました。 彼女は言葉を続けます。 「ここが観客席だとするだろう? 自分の立ち位置だ、それは舞台であるかも知れないし客席かもしれない。でもまぁ、ここは客席と定義しよう」 「客席から舞台を見ているわけだ。演じているのは自分以外の周囲の人間で、彼らはこちらのために演じてくれている。自分はその輪へは入っていかない」 「だから文句はつけ放題だ。何せこちらはお客様なんだからな、そりゃもう言いたい放題の好き放題が出来るってもんさ。それが客の醍醐味だしね」 「しかしだ。しかし客で客でしかなく、文句をつけるばかりで充足感と言うのは得られない。演じきった達成感も頂戴できるかもしれない拍手も何もない。ただ不満が残るんだ」 「だからまた次の舞台を欲する。自分の充足感を得るために、永遠と満たない充足感を求めてだ」 「満ち足りたければ舞台に上がることだ。彼らと同じ場所に立ち、文句をつけられ野次を聞き罵声を浴びせられて、だがときに拍手喝采を送られ仲間に祝福されるときが来るかもしれない」 「映画館の喩えでもいいぞ? ほら、立ち上がってごらん。背後から映写機の光がお前を照らし出してくるだろう。スクリーンに映るお前の影は途方もなく大きく映し出されてさながら化け物のようだ。それがお前が認めるお前の大きさだ」 私は立ち上がりました。 彼女の言う通りです。 目の前には真っ白なスクリーンが飾られて、そこには私の影が大きく歪に映し出されていました。 映写機が映し出しているのは私の影だけで他に何もありません。 色も音楽もなく、ただただ私一人だけが写っているだけです。 なるほど、と納得しました。 私は正面のスクリーンを見据えたまま、私を見ていました。 そしてもう一人の私に問いました。 「あれが私の見ている私。では原寸大の私はどこ?」 「振り返ってみればいい。そこにあるものは果たして何だ?」 彼女は笑いました。 「確かめてみればいい」 私は振り返りました。 そこは暗がりの客席で、空のシートがずっとずっと延々と続いていました。 誰もいません。誰も見えません。 照明が消えました。 あたりは真っ暗となりました。 空のシートも見えなくなりました。 私は私まで見失いました。 そして声だけが降ってきました。 「さあ、見えるかい?」 空のシート。 安泰な客席。 まるでサン・ミケーレの丘のようにも見えました。 何もない場所が私の座っていた場所でした。 立ち上がり振り返ってしまった私は私を見ました。 そこに何も見出すことは出来ませんでした。 ※※※※※ 気軽に、あえて形式や作文作法を無視して書いてみようお手紙SS。 なぜに「お手紙」なのかは、サイト開設する前にお世話になったテキストサークルさんで「原稿用紙3枚でオチつけて話を作れ」という課題をもらったときの通称です。 3枚=手紙の長さ、という安易ネーミング。 3枚だと一人称がラクですが、それに頼りすぎると似たり寄ったりな話になってしまう、独りよがりになりやすいという問題点が出てきます。 私は最後までそれを克服できなかったので、今でももうちょっとお世話になっておけばよかったなぁと後悔してしまいます。 あと二つ、次が青で最後がオレンジの予定です。 元ネタになった話などは最後のオレンジで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.06.28 19:03:45
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