命というもの――輪廻転生(りんねてんしょう)――生きかわり死にかわりすること。 車輪が回転してきわまりがないように、霊魂が転々と他の生を受けて、 迷いの世界をめぐること。*岩波国語辞典より* 助産師Tさんは退院指導の際に、私にこんなようなことを言った。 「私は別に信心深い方ではないですが、生まれ変わりのようなものはあると思っています。 春歌ちゃんの魂はこれで消えてしまったわけではなく、 めぐりめぐって必ずこの世にまた生まれてくると思います。 それは○○さん(私)のお子さんとしてかも知れないし、 そうではなく、どこかよその人の子としてかも知れませんが。 でも、そうやってどこかで必ず春歌ちゃんは生き続けるのではないでしょうか」 その言葉通り、また生まれ変わってこの世のどこかに存在してくれたらどんなにいいだろう。 私もTさんと同じく決して信心深い方ではないのだが、 死産後は「輪廻転生」この言葉にすがる思いで、新しい子を授かるよう願っていた。 春歌の生まれ変わりを望むと言うより、悲しい体験を「なかったこと」にしたかった、 と言った方が正しいかも知れないが。 そして再び妊娠。 喜びと不安の中、同時に思ったことは「ああ、全く新しい命なんだな」ということだった。 この子は春歌ではない・・・ 春歌の生まれ変わりかも知れない、或いは生まれ変わりであって欲しい、とは 妊娠が分かってからは一度も考えたことがない。その新しい命・伊吹が生まれた後もだ。 現実は、かくも残酷で明らかであった。 そのことに気づいて愕然とし、涙したこともあった。 しかし、それと共に伊吹という一人の個性の存在を、しっかりと確認出来たとも言える。 ダウン症というハンディを乗り越え、この世に生を受けた伊吹。 姉の生まれ変わりでなくとも、もしかすると姉の分まで強い生命力をもらってきたのかも知れない。 それでも私は、輪廻転生という言葉を信じている。 私の家族として近くにいることはないだろうが、きっと世界のどこかに生を受け 笑っているのだと思いたい。 伊吹という名は、生命の意を表す「息吹」から付けた。 お腹に宿る前から私が考えていた名だ。 その通り、生命力溢れる元気な子に育って欲しい。それが全ての願いだ。 ジャンル別一覧
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