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カテゴリ:小説
僕は車を飛ばしていた。彼女のそばに行くんだ。行かなくちゃいけない。
その思いが僕を駆り立てた。 どんなに飛ばしても僕の街からは1時間かかる。僕は1分1秒を焦っていた。 信号を無視し、一方通行を逆走し、右側車線を走って周りの車を追い抜いた。 メーターは時速100kmを超えていた。 事故を起こすことなんて考えもしなかった。事実、車にはかすり傷ひとつ着かなかった。 運が良かったのだろう。 彼女の実家前に着いた。居るとは思っていなかったが彼女の携帯に電話をいれる。 留守番メッセージが応答する。 メールを打ってみる。「会いたい。今実家の前に居る。」5分待ったが返信は無い。 時計は5時を回っている。彼女の部屋はここから3駅離れた街に有ると聞いていた。 しかし場所までは知らなかった。 とりあえずその駅まで行ってみる。もしかしたら居るかもしれないと思った。 夏の夜明けは早い。ネオンはとうに消え、明け烏が道端にたむろしている。 始発列車も動き始めていた。 やはり彼女は居ない。もう一度電話を掛ける。また留守番メッセージだ。メールも入れてみる。「とにかく会いたい。駅に居る。」 何時までたっても返信は来ない。7時。街はすっかり動き始めている。 彼女はここから仕事場へ行くはずなのだ。 僕が見逃すはずは無い。きっと見つかる。そう信じていた。 僕は血眼になって人の流れを追った。彼女は居るはずなんだ。 しかし彼女は居なかった。見つからなかったのではない。 僕は渋谷でだって彼女を見つけることが出来た。小さな駅だ見逃すはずは無い。 8時を過ぎた。もう彼女がここに居てはいけない時間だ。 彼女は消えてしまった。僕の指の間をすり抜ける砂粒のように。 僕達の関係からすり抜けて消えてしまった。僕だけを残して。 僕の目から頬には、一筋の水滴の流れが出来ていた。 そしてそれは止まることは無かった。 彼女を救えなかった。その思いと後悔とが、頬を伝って流れていた。 彼女は消えてしまったのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004/11/22 11:10:24 PM
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