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カテゴリ:小説
![]() ![]() 俺は事実を整理した。 死因- 急性脳溢血 救急への通報者- 岡地真知子。 現場- 優作氏の工房 休息室 警察- 未介入 以上。 後は現場を見てからだな。 次の日 俺は優作氏の工房へ向かった。 三輪には、岡地真知子を、調査するように言っておいた。 優作に師事して何年か。私生活。恋愛関係。そういったことだ。 バカでもそのくらいはできるだろう。 現場の休息室は4畳半の和室。 座布団が散乱している。 側には丸めた毛布と、バスタオルが1枚。 ちゃぶ台に、紅茶のカップと女性週刊誌が1冊。 ふーん。 俺は週刊誌をパラパラとめくった。 なるほどね。 この部屋の状況と、週刊誌の記事。 謎はすべて解けた。 その夜 俺は三輪の報告を受け取り、岡地真知子と真夜を呼んで調査報告を始めた。 名岡氏の勤める 麻布のレストランの一席で。 「結論から言うと、優作氏の死亡は事故です。脳溢血。事件ではありません。 亡くなる間際の言葉 -セクシィなお菓子- については……」 俺は現場から持ち出した、週刊誌のページを開いた。 そこには [特集 世界に挑む! お菓子の貴公子 セクシィ名岡氏] の見出しがあった。 「優作氏はこれを読んだだけでしょう。バカバカしい見出しなので、声に出したのでしょうね。 倒れたのは、辛労が祟っての事のようです。医師の見解もそう述べています」 「お父上は残念でしたが……」 語尾を濁したのは、相手を納得させるテクニックだ。 ひとしきりの沈黙の後。 「…ありがとうございました」 そう言って真夜は立ち上がった。 俺は岡地真知子を呼び留めておいて、真夜を先に返した。 さてと。 「真知子さん。あなたは優作氏とどのくらいのお付き合いでしたか? 男と女として」 「エッ… 」 「真夜さんには知らせてません。安心してください」 「あの夜あなた達は、あの部屋で関係しましたね。座布団の乱れは片付けるべきでしたよ。それに女性週刊誌も」 「何をいってるんです? 」 真知子はうろたえた。 「名岡氏とは、いつからのお付き合いです? 」 「あの… 言ってることが分からないんですけど? 」 「この写真に写っているのは、あなたですよね? 」 俺は先刻の週刊誌をページ一枚めくった。 そこには、ケーキを抱えて微笑む名岡氏の後ろに 小さくだがハッキリと一人の女性が写っていた。 「……」 [失礼だとは思ったんですけどあなたを調べさせてもらいました。誰にも言いませんから、安心してください。これは俺の性分なんです。真実を知らないまま手を引けない性格なもので」 俺は続けた。 「実はあの休息室。枕がないんです。泊まれるように、毛布もシャワー用のバスタオルもあるのにね」 今度は手帳に挟んでおいた 一枚の白い羽をつまんで見せた。 「これ、枕の羽なんです。布団とはちがってキメが細かい、枕専用のダウンなんです。あの部屋に落ちてちゃいけないんですよ」 「真知子さん。あなたの部屋の枕。見せてもらえます? 」 真知子は青ざめた唇をかんでいる。 「別にどうこうするつもりはありません。彼の死は事故でした。ただ、倒れた彼をみて救急車を呼ぶのに 何分 時間を空けましたか? 」 「もし、今日まだ彼が生きていたら あなたは彼を……本当に殺す気でしたね? 違いますか? 」 真知子はすっかり疲れ果てた顔になって、自分と優作 そして名岡との関係を話した。 それを最後まで聞き終えて俺は言った。 「名岡さんと、お幸せに。また何か困ったことがあれば、田沼平久朗探偵事務所までどうぞ。お安くしますよ」 俺は席を立ち夜の街に出た。 まだ夜は冷える。 三輪も少しは探偵らしくなったかな。 当てずっぽうだが、方向は間違っていなかった。 まだまだだけどな。 レストラン入り口のショーケースにチョコレートでできた、ミロのヴィーナスが飾られている。 「セクシーなお菓子… か…」 ---了--- 笑うところが・・・無い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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