「星の王子さま」の新訳に触れて。
私が小さい頃からあった本、「星の王子さま」。日本では今まで、岩波書店から出ている内藤 濯さん訳のものだけが出版されていたのですが今年、日本での著作権が切れたのに伴い、岩波書店が持っていた独占的な翻訳出版権も消滅したため色々な出版社から様々な方の翻訳の「星の王子さま」が出始めました。内藤さんの訳にどうも馴染めず、途中で読むのを挫折した経験のある私。でも「星の王子さま」は一度ちゃんと読んでみたかったし、新訳なら読みやすいでのではと思い、早速本屋さんへ向かいました。色々な方の翻訳を立ち読みし、同じ部分を読み比べ。訳す人によって、こうも違うものかとビックリしつつ、一番自分にしっくり来る文章だった、池澤夏樹さん訳のものを購入しました。それが、上の写真の本。装丁も布張りに金の文字が入っており、とても綺麗。黄色の帯がついており、そこに王子さまの絵が載っています。可愛いリボンの栞も付いていて、すっかり気に入ってしまいました。(ちなみに、一緒に写っている石はヘマタイトさん。 栞を押さえるのに丁度いいかなと思って乗せてみただけで、 本についているオマケとかではありませんので、ご注意を(笑))さて、早速読み始めてみると、さくさく読める。以前感じた読み難さは全くなく、物語もすんなり心に入ってきました。物語のあらゆる場面に、学ぶところがあり、心に響く言葉があり。こんなに素敵な物語だったんだと、今更ながらに思いました。これは大人の為の本というのも納得です。この年齢になったから、理解できる部分というのもあるのかもしれません。「きみたちはきれいさ。でも空っぽだよ」とかれは続けた。「誰もきみたちのためには死ねない。 もちろん、通りすがりの人はぼくのあのバラを見て、きみたちと同じと考えるだろう。 でも、あれはきみたちをぜんぶ合わせたよりもっと大事だ。 なぜって、ぼくが水をやったのは他ならぬあの花だから。 ぼくがガラスの鉢をかぶせてやったのはあの花だから。 ついたてを立ててやったのはあの花だから。 毛虫を退治してやったのはあの花だから(チョウチョになる分を2.3匹残してね)。 愚痴を言ったり、自慢したり、黙っちゃったりするのを聞いてやったのは、あの花だから。 なぜって、あれがぼくの花だから」自分の星に残してきたバラを想い、地球で出会った5000本のバラたちに言う言葉。私の好きな言葉のひとつです。あの花とこの花達は、見た目では何も変わらない。でも自分にとっては全然違う。あの花は自分にとって、誰も代わる事の出来ない、たったひとつの花なのだと。人が人を想う気持ちも、そうなんだよね。「きみのところの人たちは」と王子さまは言った。「たった1つの庭で5000本のバラを育てている・・・・・・ それでも自分たちが探しているものを見つけられない・・・・・・」「そうなんだよ」とぼくは答えた。「みんなが探しているものはたった一本のバラやほんの少しの水の中に見つかるのに・・・・・・」「そのとおりだ」とぼくは言った。王子さまはこう付け足した―「目には見えないんだ。心で探さないとだめなのさ」「夜の星を見て、あの星の1つにぼくが住んでいて、 そこでぼくが笑っている、ときみは考えるだろう。 だからぜんぶの星が笑っているように思える。きみにとって星は笑うものだ!」池澤さんの訳は、サンテグジュペリの文章の持つ詩的な要素や、余計な言葉を省いた明晰で奥行きのある深い文体というものを重視して訳されたようなので、文章の長さが調節されており、簡潔な文章で成り立っているのが特徴です。なので、子供向けの内藤さん訳に慣れ親しんでいる方の中には、とても素っ気無い訳のように感じる方もいらっしゃるようですが私は短い文章の中にも、深い意味がちゃんと込められているのが解り、大人向けのいい訳なのではと思いました。宝島社から出ている倉橋由美子さん訳も、大人向けに訳された文章でとても評判がいいようなので、そちらも読んでみたいなぁと思っています。・・・にしても、訳す人でここまで物語の色合いが変わるなんて・・・。その土地の風土や、人との関わり。そんな深い歴史の中で生まれてきたその土地の言葉は、その土地だけのもの。その言葉の裏に込められた、様々な深い意味までを全く違う風土の異国の言葉に置き換えることは、完全には出来ないのだと改めて思いました。日本語だって、独特の世界観あるものね。昔から読んでみたかった「星の王子さま」。ここで紹介した他にも沢山の素敵な言葉があって、大切な本のひとつになりました。大切な事、忘れていた事を思い出させてくれる物語。今この時期に出逢えて、とても良かったなぁと思います。買った本は何度も読むタイプの私なので、これからも、何度も何度もこの物語を読んでいくだろうと思います。そして読む度に、ふと目にとまる言葉はきっと違うんだろうなぁと思ったり。そしてその度に新しい発見がありそうな、そんな深い内容の物語だと思います。こういった新訳本は、今後も色んな出版社から出て、最終的に10冊ほど出るのではと言われています。まだちゃんと読んだことのない人には、いい機会だと思いますし以前読んだことのある人は、この機会に自分好みの翻訳本を見つけて、改めて読み直すのもいいかもしれませんね。昔読んだ時には見えなかったものが、今なら見えるかもしれません。読書の秋ですし・・・皆さんも、いかがですか?(*^^*)