グラインドボーン「トリスタンとイゾルデ」Part1
昨夜まんじりともせず4時間以上、見た。
よかった…
ギャンビルさんのトリスタンは、すばらしかった。
英語の評では散々だったので心配していた。ギャンビルさんはやっぱり映像の人なのかな。最初から最後までどんどんトリスタンが変化していく。
こんなにすごい演技が出来る人はなかなかいないだろう。
感情の機微を余すところなく表現していた。
第3幕は…もう… やってくれちゃってるなという。
ヴァーグナーのヘルデンを演じる歌手として、こんなに陰影がついた、光と影のついた人間的な演技が出来る人は他にいないだろう。
アクセル全開の単なるヘルデンでもないし、能面でもないし。
最初の登場から幕が下りるまで、彼から目が離せない。
他の歌手もすごいのだが、何よりギャンビルさんの舞台だったなという印象。
英語の評ではシュテンメ絶賛だったが、確かに歌唱的にはすばらしいが、彼女は「私のイゾルデ」ではなかった。最初から最後まで「怖いイゾルデ」だった。
もっと変化を見せて欲しかったなあ…
脇もすばらしかった。スコウフスはワグネリアンロールには不向きなハイバリトン、声が軽めなので最初は正直心配した。もともとコミカルな演技力が第3幕では全開で、「これクルヴェナルのキャラ、違う」という印象でおもしろかった。
パーぺのマルケ王、これがまた驚きなのだが、ベルリン国立のマルケ王とまったく違うのだ。
ベルリンではひたすらかっこ良くって、オーラを放ってたが、ここではオーラを完全封印。
年老いた、哀れで、人間的にちょっとゆがんだ部分のある、くせのある、なよっとした、執着心の強い、猜疑心の強い感じの王。
レーンホフはさすがだ。こうまで変えるとは。
ティモシー・ロビンスンも良かったです~
今回のレーンホフ演出のもっとも革新的な部分は、時間の経過である。
なんと第2幕幕切れから、第3幕開始まで、何10年の年月が流れているのだ。
死よりも残酷なのは時の経過だ。
登場人物は苦しみ続け、ようやくトリスタンが死の床で譫妄状態に陥って初めて、物語が展開し始めるのだ。
これには…やられた。
ギャンビルさんもシュテンメさんもこの3幕が一番自然で良かった。
人間だった。ヘルデンじゃない。
老いた人間が後悔に満ちて死んでいく現実そのままの姿だった。
第1幕
イゾルデが怨み節、火を吹いている。
またあの若い水夫の歌が聞こえてくる。
アイルランド娘が泣いている…という歌。
「私をバカにしている!」
激怒するイゾルデ。
背後にゆっくり現れる人影。
トリスタン。
鉄のかぶとをかぶっている。
表情は憂いを帯びていて冷静沈着。
ここは本来は登場シーンではないのだ。
トリスタンは船の行く先を見ている。海を見ている。
そのトリスタンをイゾルデは見ている。
イゾルデはブランゲーネをトリスタンのところにやる。
トリスタンはブランゲーネを見ない。
憂いに満ちた眼でずっと船の航路を見ている。
しかしブランゲーネが女主人の侮辱に満ちた言葉をそのまま伝えると、ブランゲーネをきっと見据え、出て行く。
クルヴェナルがブランゲーネの行く手を遮るように剣を床につく。
船が港に近づき、クルヴェナルが呼びに来るが、イゾルデはトリスタンが自分のところに謝罪に来ないと行かないと言い出す。
トリスタンがやってくる。
長い影が上手の入り口から伸びる。
トリスタンは相変わらず、冷静沈着な憂いを帯びた表情で、まるで自分の感情を押し殺すようにしている。
しかしイゾルデが自分を殺さなかったのはモロルトを愛していてモロルトの敵を誰かが討ってくれると思っていたからだと聞かされるとだんだん動揺してくる。
トリスタンは本来ではここのシーンではイゾルデにつれない。
しかしこの演出では、明らかにイゾルデへの気持ちを押し隠しているトリスタン、それを出さないよう必死でこらえているようになっている。
トリスタンは言う。「あなたの口に出さない気持ちもわかっている」
「だからこの杯をいただこう。」
彼はこれが毒杯だと明らかに知っていて飲もうとしているのだ。
彼女をマルケ王に届けるために、そして自分の気持ちを断ち切るためにもうここで死のうとしている。
しかしイゾルデもその杯を奪って飲んでしまった。
苦しんで2人とも倒れる。トリスタンはかぶとをぬいでしまう。
暗闇。
2人が気がついたとき、表情は一変している。
毒薬は恋薬にすりかえられていた。
「今までとらわれていたトリスタンの名誉って何だったんだ?」
お互いの気持ちのかせが取り払われる。
抱き合う2人。
ブランゲーネが引き剥がす。
トリスタンはふらふら酔っ払ったように歩く。
目線が定まっていない。
船が港に着き、メロートが入ってくる。
第1幕了。
Part2へ続く。
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最終更新日
2007年12月02日 11時57分10秒
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