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カテゴリ:語学
家庭教師のEさんは、大学2年生だったが、
兵役義務を終えて、数ヶ月前に復学したばかりだった。 韓国では、男性は18歳以上になると兵役の義務があり、 その期間は2年4ヶ月にも及ぶ。 たいていは、 大学受験を終えて、2~3年生の頃に入隊することが多いらしい。 Eさんもその1人だったが、 除隊して数ヶ月が経ったその時でもまだ、 その時の記憶が生々しく残り、多少トラウマになっているようだった。 「軍隊」という言葉を聞くと、 「ハーッ・・・」とため息を吐いて、嫌そうな顔をすることが度々あった。 そんなEさんには申し訳なかったが、 私は「軍隊の話」に興味津々だった。 その”特殊な世界”がどういうものかを、じかに聞いてみたかったのだ。 彼の話す好きな女の子の話はどうでもよかったが、 軍隊の話は、身を乗り出して聞いていた。 Eさんは、軍隊を蛇蝎のごとく嫌っていたので 最初は聞いてもあまり話してくれなかったが、 しばらく経つうちに、ちょこちょこと話してくれるようになった。 ・・・・・・・・・・ 「見回りの時の話」 Eさんが入隊して間もない頃、夜間の見回りを命じられたそうだ。 懐中電灯を持って、夜中、施設の中を見回る仕事らしい。 「で、トイレを巡回してたんですよ、そしたら・・」 「そしたら?」 「トイレのドアが閉まってて、床に、なにか赤黒いベタ~ッとしたものが見えたんです」 「えぇ~??」 「そしたら・・・それは”血”だったんです。冬場だったから、血も固まりかけてて、 液体じゃなくてベタッとした感じで・・」 「ひぇ~・・@@」 「で、急いで人を呼んでドアをこじ開けて、中にはいったんですよ」 「中はどうなってたの・・?」 「人がうずくまって倒れてました。手首かどこかを切ってて、自殺しようとしてたんです。 発見が早くて、助かったみたいですけど・・」 「じゃ、Eさんが発見したから助かったんだ」 「そうですね。でも、そういう、自殺をしようとする人って、軍隊じゃけっこう多いんですよ」 「その後、その人はどうなったの?」 「そういう人は、”不名誉除隊”です。普通の除隊じゃなくて、 ”脱落者” というレッテルを貼られてしまうわけです」 「そうなんだ・・・」 そのレッテルは、一生消えない。 兵役義務を普通に終えなければ、一流企業への就職はまず無理だし、 一流でなくとも、就職する際には通常の除隊がまず大前提なのだ。 Eさんは、途中で自ら脱落してしまう、そんな人達に対して、 「精神的に弱すぎる。いくら辛くったって、やっぱり乗り越えないと・・・!」 と言って、また 「ハーッ・・・」 とため息をついていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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