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サリエリの独り言日記

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2022.10.14
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カテゴリ:エレクトーンの日
LiSA’s blade
 ここであらためて、PVに使われたLiSAさんの「」を聴いてみると、テンポは多少早くなっているとはいえ、発語やブレスの位置など、厳密に「THE FIRST TAKE」と同じで、formatじたいはいささかも変更していないことが分かる。であるにもかかわらず、私たちはまったく別の音楽を聴いたような印象を受けてしまう。先にも言いましたが、これはどちらが好いとかという話ではなくて、それぞれの音源には、それぞれの目的やコンセプトがあって、それに沿って制作されているということです。

 さて、以下は例によって、私の完全な妄想話となります。
 「彼女の頭の中に、『声』が飛び込んできた」というのは、私の解釈ではLiSAさんの身体に、不意に上から別の声が降りて来た、というふうになるのですが、この場合の上からとは、自身が意図した歌唱とは別の声が、外から降りて来て身動きできなくなった、あるいは「別の声に唄わされている」という感覚になったのではなかったか?「途中で落ち着かなきゃ~」というのは、その常ならぬ声にわが身を任せていいのか、操られるまま唄っていったら、音楽が壊れてしまうのではないか、というような恐れを現していると思うのです。
 LiSAさんはおそらくその時、我が身をその「声」に任せるほうを選んだので、おしまいのほうでは、ほとんどしどけないほどの歌唱を見せることになりました。彼女は技術的にもそうですが、歌唱が壊れる寸前のところで、何とか踏みとどまっているような、非常に危ない唄いかたをしているわけです。いわば刃の切っ先線上を伝い歩きしているような印象を受けるでしょう。
 とはいえ彼女はライヴでは、いつでもギリギリの歌唱を披露してきたわけで、そのあたりの予感と対処の仕方はある程度知っていたかもしれません。

 しかし、また元に戻りますが、唄い終えたあとずいぶん時間をかけて、考え考え「いろいろなことを~」と語りだすところを見ていると、私はここの「思い出しました」という言葉は、たぶん後付けなんだろうと思ってしまう。「常ならぬ声」を聴いた後の感覚を、とりあえず自身も納得させるかたちで合理化した、ということではなかったか?もしそれが明瞭な感覚だったのであれば、もう少し早くコメントがあってもいいような気もするのです。
 これはもちろんLiSAさんを揶揄しているのではなくて、こうした「常ならぬ声」に導かれるなどという感覚は、純粋個人的な体験に属するもので、そもそも言葉で説明不可能な種類に属するのです。イチローがどんなに自身のバットコントロールを説明したところで、結局誰にも共有出来ない純粋個人の感覚であるように。したがって彼は比較的早くから、そうした話はしなくなったでしょう。

 で話は、ではその「声」とは何であったか、という命題にまた戻るのですが、それはたぶん炭次郎や煉獄やLiSAさん個人の「痛みや悲しみ、怒り」ではなく、それらのさらに奥のほう、ヒトだけが持ちヒトだけが共有することの出来る「痛みや悲しみ、怒りの声」であったろうという気がする。動物は身体的「痛み」を感じることは出来ても、心の「痛みや悲しみ、怒り」を感じることは出来ない。そうしたヒトだけに通底する「痛みや悲しみ、怒り」から来た、はるか奥からの「声」を聞いたのでしょう。
 これは歌手にかぎらず、いわゆる優れた芸術家に通有に備わっている感覚で、自身の穴ぼこを掘り続ける作家や、目くるめく光に立ち向かうことをやめない画家、法悦の感覚に溺れて、自身の命を顧みないような音楽家は、これまでに何人もいましたよね。

 LiSAさんが唄う第三節、「手を伸ばし、抱き止めた、光の束~」と続くところ、彼女は手の表現がとても巧みで、歌が身体表現であることを強く感じさせる人ですが、「輝いて消えてった、未来のために~」 で広げられた両手は、私にはまたしてもリルケの「ドゥイノの悲歌」の一節を連想させます。

― ああ、たとい私がいかに叫んだとて、いかなる天使が聞いてくれよう? すべての天使は恐ろしい ―
 
 この場合の天使とは、もちろん宗教的な意味はなく、絶対的美を体現するものとしての「天使」なのですが、美はそれに近づこうとする人間を拒みはしないが、近づく人間をことごとく焼き尽くす、そういう相貌を片方で持っているということです。LiSAさんが「常ならぬ声」を聞き、それに我が身を任せながら唄っていたら、終わりのほうでは、その「声」の放つ光芒のすさまじさに、思わず手をかざしてしまった、というふうに私には見えてしまう。

 それにしても、いちばん最後に、「この白い空間、ずるいと思う」と照れ隠し気味に笑うLiSAさんを見ていると、何やら医務室で身ぐるみ剥がされて、身も具も全部見せてしまい、「しまった!」みたいな気分があって面白かった。
 彼女がこの先どんな道筋をたどられるのか、想像もつきませんが、LiSAの刃が光り続けることを願ってやみません。





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Last updated  2022.10.14 12:07:49
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TNサリエリ@ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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