トカトントン 2.1

■島田荘司の短編人気投票が講談社とアマゾンの共同企画ですすめられている。なんでも年末に「島田荘司 very Best10」なる短編集が計画されており、読者が選んだ上位5編と作者自身が選んだ5編を合わせて、全部で十の短編が載せられる予定だという。

■現在Amazonの専用ページで投票を受け付け中。希望者にはもれなく「御手洗潔」と「吉敷竹史」の名刺が送られるそうだ。まあ、それをもらって、どうということはないが、5編を選ぶことに興味を覚えたので、この前投票してみた。以下はその時選んだ５つの作品である。

1・「糸ノコとジグザグ」

これは圧倒的に印象に残る。ラジオから流れる自殺予告者の複雑なメッセージを変人御手洗が解き明かす。演説癖、挙動不審、まだこの名探偵が世に認知される以前の印象的な事件簿。

2・「SIVAD SELIM」

たしか、主役は石岡君。横浜の高校生が主催するコンサートに審査員として招かれた彼の動揺が楽しかった。そしてステージにはなんとあの人が。御手洗交友録もついにここまでの広がりを見せたのか。その有名ミュージシャンの名はタイトルの中に。

3・「疾走する死者」

音楽つながりでこの一編も印象的。主役は隈能美堂巧。11階から逃げ出した男はなぜだか高架線上で死んでいた。嵐の夜、マンションの一室、そしてチック・コリアとリターン・トゥ・フォーエバー。御手洗のエレキギター炸裂。

4・「数字錠」

三ケタのカチャカチャ回して解錠するあれの話。何万通りもある数字の並びを限られた時間で開けてしまう方法が実はあった。なんでもないことのようにその答えに辿り着く御手洗の頭脳と彼のとった思いやりと。

5・「Pの密室」

登場するのは小学生時代の御手洗潔。イメージは半ズボンの花形満。その頃すでに彼には人より秀でた才能が。短編というより中編だが、「鈴蘭事件」と共に異色の好編。

■著者自身も予想しているように読者投票では80年代、90年代初期の作品群が選ばれると思う。初期御手洗ものには近作では見られなくなった感受性とかユーモア感覚が見られる。そして彼と石岡君の馬車道でのやりとりもまた微笑ましく懐かしい。わたしの選んだ5つもまたそんな時代の作品が多い。彼が現在までに残した短編は67編、そのリストは以下の通り。投票は８月いっぱい、まだ間に合いますよ。

『網走発遙かなり』

「丘の上」「化石の街」「乱歩の幻影」「網走発遥かなり」　

『展望塔の殺人』

「緑色の死」「都市の声」「発狂する重役」
「展望塔の殺人」「死聴率」「D坂の密室殺人」

『御手洗潔の挨拶』

「数字錠」「疾走する死者」
「紫電改研究保存会」「ギリシャの犬」

『毒を売る女』

「毒を売る女」「渇いた都市」「糸ノコとジグザグ」
「ガラスケース」「バイクの舞姫」「ダイエット・コーラ」
「土の殺意」「数字のある風景」　

『嘘でもいいから誘拐事件』

「嘘でもいいから誘拐事件」「嘘でもいいから温泉ツアー」

『見えない女』

「インドネシアの恋唄」「見えない女」「一人で食事する女」

『御手洗潔のダンス』

「山高帽のイカロス」「ある騎士の物語」　
「舞踏病」「近況報告」

『踊る手なが猿』

「踊る手なが猿」「Y字路」
「赤と白の殺意」「暗闇団子」

『天国からの銃弾』

「ドアX」「首都高速の亡霊」「天国からの銃弾」

『御手洗潔のメロディ』

「IgE」「SIVAD SELIM」
「ボストン幽霊絵画事件」「さらば遠い輝き」

『Pの密室』

「鈴蘭事件」「Pの密室」

『最後のディナー』

「里美上京」「大根奇聞」「最後のディナー」

『島田荘司読本』

「天使の名前」

『御手洗潔攻略本』

「御手洗潔、その時代の幻」　

『ミタライ・カフェ』

「シアルヴィ」「ミタライ・カフェ」

『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

「シアルヴィ館のクリスマス」　　

『上高地の切り裂きジャック』

「上高地の切り裂きジャック」「山手の幽霊」　

『エデンの命題』

「エデンの命題」「ヘルター・スケルター」

『帝都衛星軌道』

「帝都衛星軌道」「ジャングルの虫たち」

『溺れる人魚』

「溺れる人魚」「人魚兵器」
「耳の光る児」「海と毒薬」

『UFO大通り』

「UFO大通り」「傘を折る女」

『光る鶴』

「吉敷竹史、十八歳の肖像」「電車最中」

『「メフィスト」小説現代2007・5増刊号』

「クロアチア人の手」