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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

Nobuyuki Ota

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2023.07.29
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東京ファッションデザイナー協議会(略称CFD)責任者として10年、CFDから東コレ運営を引き継いだ日本ファッションウイーク推進機構のコレクション担当理事として17年、合わせて27年も私は東コレに関わってきました。さらにアパレル企業の経営者として10年。これまで多くのファッションデザイナーと接してきましたが、「もっと売れるものを作って」とデザイナーに言ったことはありません。ファッションビジネス人としての信条だからです。


シャネルは外部デザイナーとブランド協業のお手本

バイヤーやマーチャンダイザー育成の勉強会ではよく受講生に話します。「せっかく作ったんだから販売が容易でないものもチャレンジすべき」、と。

ブランドのファッションショー、次シーズンの売上はかなり行けそうと自信あるコレクションもあれば、売れないかもしれないと不安になるコレクションもあります。前者では、前年実績など気にせず行けると思う極限まで発注予算を上げて販売してみよう。後者では、前年以上は無理かもしれないけれど、ビジネスチームの力でなんとか前年並みは頑張ってみよう、決して「売れない」と諦めてはならない、販売スタッフやマーチャンダイザーにはよく言いました。

パリコレのランウェイや展示会で商品を見ながら「前年比120%は行けそう」という好コレクションもあれば、「前年比80%は覚悟しなければならないかな」と悲観的なものもありました。発注時に前年比80%想定の発注をすれば実際には80%にも届かない、発注にメリハリをはっきり付けて例年以上に綿密な販売計画を立て、チーム全員で前年並みは頑張ろうとハッパをかけました。


クロエも最近デザイナー短期交代が続く

かつてパリコレや東コレでは、ショーに登場する服はぶっ飛んでておもしろいのに展示会に行くとその大半はボツ、生産する予定もないのにマネキンやハンガーラックに掛けて見せているというケースがたくさんありました。販売予定がない服を平気で掲載し、「参考商品」と表記するファッション雑誌も日本ではよく見かけたものです。これって極端な言い方すれば詐欺行為、あってはならないと言い続けてきました。

その点、私がニューヨークに住んでいた頃の米国ファッション雑誌はしっかりしていました。「参考商品」なるものの掲載はしないどころか、雑誌の巻末に編集ページで取り上げたものは全米のどの小売店で販売予定か一覧表記してありました。つまりショーで見せるだけの服は読者に紹介しない編集方針が徹底されていたのです。

バーニーズニューヨークの幹部と一緒に買い付けに来日したとき、ショーに登場した服はクリエイティブでおもしろいけれど展示会場では普通の服がズラリ並ぶ光景を何度も見ました。そんなブランドには「なんのためにファッションショーをしているんだろう」と大いに疑問を感じたものです。あの頃東京は時代錯誤のままでしたから、CFDを設立したときからずっと「ショーで見せたら売る、ボツにはしないで」、「参考商品は展示会で見せない、貸し出しをしない」と唱えてきました。


フィービー・ファイロはセリーヌの価値を高めた

デザイナーがつくるコレクションは、仮に100枚生産してほぼ完売が予測できるものもあれば、100枚作ったら10枚も売れないだろうというものも中にはあります。売れそうにないからとボツにしていてはチャレンジングな服の本当の評価はわかりませんから、100枚は難しくても2、30枚くらいは生産してお客様に訴求すべきでしょう。それでもプロパー消化率75%目標と現場には要求し続けました。

せっかく生地屋さん、工場さん、パタンナーも含めてみんなで一生懸命作ってショーで実験服を見せるのです、簡単に量産ボツにしないでお客様の反応を見るべき、その代わりブランド全体で高いプロパー消化率ならそれでいいじゃないかと何度も繰り返し言い続け、結果的に難しそうなコレクションピースを生産しつつプロパー消化率70%以上(現場には常に目標75%消化を要求)を維持できました。

この75%目標の話をアパレル企業の経営者たちとの宴席で話したら、「滅茶苦茶な数字を言うんだね」と笑われましたが、これは架空の話ではなく実際に達成してきた事実なのです。


コムデギャルソン青山店

バーニーズニューヨークの買い付けで初めてコムデギャルソンと出会ったときから、難しい服でもボツにはしない姿勢に共感してきました。80年代初めボロルックと揶揄された穴あきセーターやナイフで切り刻んだ服も、コムデギャルソンはボツにすることなくちゃんと市場に供給していました。その「見せたら売ってみる」強い意志、ブランドビジネスでは非常に重要なことだと思います。

ニューヨーク時代、デザイナーとマーチャンダイザーはイコールパートナーと教わりました。どっちがポジション的に偉いかではなく、デザイナーはクリエーションに責任を持ち、マーチャンダイザー(あるいはブランド責任者)はビジネスに責任を持つ。ビジネス側はクリエーションに口を出さない、デザイナーは枚数配分や営業政策に口を出すべきではない。だからビジネス側は「もっと売れるものを作って」と言ってはならない、クリエーションを受け止めてそれをどう売るか考案するのはビジネス側の責任範疇です。


​​ラフ・シモンズのディオール退任は早かった


エディ・スリマンのサンローランも短命


アレキサンダー・ワンのバレンシアガも短命
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最近海外有名ブランドのデザイナー交代劇が頻発、しかも在任期間があまりに短い解任が増えたように思います。コロナによる消費減速、原材料の高騰、過熱したショー演出の経費増などが関係しているかもしれませんが、一番の問題はデザイナー就任時の両者の話し合いが十分になされていないのが原因ではないでしょうか。クリエーションにビジネス側が口出しすれば、デザイナーはやる気を失います。売れる売れないはマネジメントの責任、デザイナーのせいにしてはならないでしょう。

このところのデザイナー交代劇、概してビジネス側が勘違いしているのではと思えてなりません。デザイナーを外部からわざわざ招聘したら、デザイナーのクリエーションを信じた上でブランドはどういう路線で行くのか、主にどういう顧客ターゲットを狙うのか、どういう販路を強化するのかを十分話し合い、長くプロジェクトが続くようお互い努力すできでしょう。そうすれば2年足らずの短期間で解任なんてニュースは増えないはずですが。


ロエベはレアケース

人気が衰えないジョナサン・アンダーソンのロエベ、もうすぐ提携10年目になります。若手の外部デザイナーと老舗ブランドの協業では関係が長く続いている、いまとなってはレアケースです。既存の顧客だけに頼らずいろんな試み(例えばスタジオジブリとのコラボ)をして新規客の開拓をしていますが、デザイナーの挑戦をビジネス側がちゃんと受け止めている様子が目に浮かびます。こういうデザイナーとマネジメントの良好な関係がもっと増えるといいですね。​​​​​​​​​





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Last updated  2023.08.02 23:38:22
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