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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

Nobuyuki Ota

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2024.01.14
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前項「社員のお母さん」が1970年に自宅で起業したのは30歳になるかならないか、会社経営を学校で学んだわけでもないし、当時はまだ男性社会で苦労も多かったはず。しかも創業の翌年早くも三宅一生さんはニューヨークでデビュー、73年にはパリコレ進出、きっと資金繰りも大変だったでしょう。出産前の大きなお腹を抱えて資金調達に関西出張した話を小室さんから伺いました。いつの時代もいかなるジャンルでも先駆者はお手本がないので苦労の連続です。


小室知子さん(ソルトンセサミお仲間のブログから引用)


ソルトンセサミのお仲間と。右から2番目が小室さん。

CFD(東京ファッションデザイナー協議会)を設立してちょうど1年経過した頃、私がニューヨークのパーソンズ(PARSONS SCHOOLF DESIGN)夜間バイヤー養成プログラムで学んだことを日本の若者にも伝えようと、個人的な勉強会「月曜会」を開講しました。ここで一番伝えたかったことは、「売り場を歩いて時代の変化に敏感になる」でした。パーソンズで「敵情視察」(2つの店を調べて比較分析、改善点を考える訓練)の宿題が一番きつかったし、同時に人生で最も役に立った講義、これを日本でも教えようと私塾を始めたのです。

月曜会の授業料は無料、週一度講義があり、宿題もたっぷり出す。外部講師への謝金は私が業界セミナーで得た講演料でカバー、会場はCFD会議室を使用するので無料。受講生は一般公募、その告知は夏休み期間中に繊研新聞に記事掲載してもらいました。普通に募集すれば職場や学校で記事が目に留まることもあるでしょうが、夏休みならば自宅購読していないと気がつきません。せめて専門紙の1つくらいは自宅で読んでいるやる気のある若者を集めたかったので、あえて夏休みに募集しました。

選抜レポートで応募者の中から参加者を決めましたが、正直に言えば毎回1枠だけ例外がありました。CFDの運営で何かと私の力になってくれる小室知子さんの推薦枠、小室さんが指名したイッセイグループの若者が毎回1人参加していました。

当時主にショップデザインを担当していた吉岡徳仁さん、滝沢直己さんのイッセイミヤケで雑貨デザインを担当した小此木達也さん、独立後バッグブランドMagnu(マヌー)を手掛けた伊藤卓哉さん、彼らは特別枠での参加でした。

吉岡徳仁さんはユニークな存在でした。宿題とは別に毎回全受講生には感想文を提出してもらうんですが、彼だけは毎回文章の代わりに詩を書いてきました。外部講師の話に対して自分なりに感じたことを詩に書く、それがなかなかマトを得ていて説得力あるものでした。昨秋の毎日ファッション大賞授賞式で彼とは久しぶりに会いましたが(同賞トロフィーは吉岡さんデザイン)、「太田さんの顔を見たら月曜会を思い出しました。楽しかったですよね」、と。彼の詩に「楽しい」の文字は見たことなかったですが、懐かしそうに声をかけてくれて嬉しかったです。

もうひとりバオバオイッセイミヤケのバッグを考案した松村光さんも参加者でした。彼はすでに三宅デザイン事務所に在籍して小室さんの推薦だったのか、それともまだ武蔵野美術大学大学院生で自主応募だったのか忘れましたが、彼も月曜会の塾生でした。デザイナーのほかにも素材メーカーや小売店勤務、ショーのプロデュース会社やデザイナーアパレルで中核メンバーとして活躍している教え子もいます。

CFD事務局で開催する無料の私塾、会員企業の従業員が参加してもいいんですが、CFDのほかの会員企業は興味がなかったようで頼まれることはありませんでした。

また、私たちが設立に奔走したIFIビジネススクール(1994年秋開講)の夜間プロフェッショナルコースにも、イッセイグループ社員(エイネット含む)が毎回参加していました。こちらは授業料有料、参加のための審査はありません。小室さんはこういう場で若い社員が刺激を受け、他社の人たちと交流して視野を広げることが重要とお考えだったのでしょう。ビジネススクールに毎回若手社員を送ってきたブランド企業はイッセイミヤケグループだけでした。


山中IFI理事長(中央)の背後にイッセイグループ社員

主だったファッションブランドは年2回はコレクション発表(メンズ、レディース両方を展開するブランドは年4回)があり、コレクション発表直前と展示会準備で企画部門も営業部門も残業が当たり前、中にはタイムカードなしのサービス残業をさせるブラック企業も少なくありません。だから従業員は自己啓発の機会が少ない。これでは視野の広い人材、人脈ネットワークのある人材はなかなか育ちません。サービス残業はもってのほか、ブランド企業幹部は残業をやめさせ、社員を時間通りに解放して自己啓発や他社との交流の時間を与えるべきだと思います。

せっかくファッション流通業界の人材育成のためにビジネススクールを作っても(設立に奔走していた私は当時CFD議長)、ファッションブランド企業からの受講生はほとんどなく、イッセイグループの社員たちだけが参加者でした。世界的に知名度の高いブランド企業の創業者が若い従業員を私設勉強会やビジネススクールに送り込んで経験を積ませる、ブランド企業の幹部にはぜひ考えて欲しいことです。

本来、企業はヒト、モノ、カネの順。近年はカネ、モノ、ヒトの順と考える経営者は決して少なくないように感じますし、クリエーションが重要なブランド企業はまず最初にモノありきかもしれません。が、いくらアトリエのクリエーションが秀逸でも、ヒトを育てないことには企業の発展はありません。小室さんはグループのお母さんとして多くの子供たちにチャンスを与えてきました。加えて、自宅に若い社員たちを呼んでは社員たちの忌憚のない意見をよく聞いていましたし、グループから独立した社員たちが開く展示会には頻繁に足を運んで励まし、応援のために個人発注もされていました。

もちろんグループの発展には歴史に名を残すカリスマデザイナーの存在が大きかったし、ほかに優れたテキスタイルデザイナーや熟練パタンナーの存在もありましたが、人材育成に熱心だった創業マネージャーの存在も大きかったと思います。グループ卒業生がファッション業界でたくさん活躍しているのも、ヒトに学ぶチャンスを与えてきたからではないでしょうか。





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Last updated  2024.01.24 23:09:50
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