カワセミ入門書~Charlie Hamilton JamesのKINGFISHERS
1.イギリスのCharlie Hamilton JamesのKINGFISHERS(1997)は、カワセミ入門書としてお勧めの一冊です。残念ながら、日本語訳がないので、原文の英語で読むことになりますが、plumage(羽毛),habitat(生息地)などの専門用語さえ覚えてしまえば辞書を片手に読むだけの価値がある本だと思います。ページ数も48ページで写真も多く、楽しみながら読むことができます。日本では、これに類するものがないといってよいでしょう。敢えていうと、嶋田忠「カワセミ~清流に翔ぶ」(1979,平凡社)と矢野亮「帰ってきたカワセミ~都心での子育て」(1996,地人書館)を足して2で割った本です。かつ価格も安いです。2.日本に紹介されているカワセミ関連の洋書としては、一番ポピュラーなのは、C.Hilary Fry and Kathie FryのKingfishers,Bee-Eaters, & Rollers(1992)ですが、これは、狭義のカワセミ(コモン・キングフィッシャーとかリバー・キングフィッシャー)だけでなく世界のカワセミ87種類について書かれたもので、狭義のカワセミについての記述は3ページ程度で、ちょっと物足りなさを感じます。この点で、上記のジェームスさんの「キングフィッシャー」は、適度な本だと思います。もっとも、同じカワセミといっても、イギリスのカワセミと日本のそれとは、自然環境などにより多少違うかもしれません。そもそも、イギリスの場合は、いまでもカワセミはクリーン・リバーの鳥みたいです。この点で、日本は都市化した鳥がメジャーなカワセミです。3.読後感ですが、まず、具体的な説明が数字でもって説明されて科学的です。日本の本で例えば、以下の事項について、全て書かれているものはないと思います。だからといって、これが根拠のあるものかどうか、例えば、2人のFryさんのKingfishers,Bee-Eaters, & Rollersと比較しても同じものが少ないです。Fryさんの本では、全長16センチメートル、抱卵日数19~20日、育雛日数24~25日などをはじめ結構違います。むしろ、抱卵日数・育雛日数については、矢野亮さんの「帰ってきたカワセミ」のほうが実証的で評価できます。ここで私が申し上げたいのは、良いか悪いかの問題ではないですが、日本のカワセミ本は写真集が典型的ですが芸術的だということです。生物学の本までいかなくても良いから、ルポルタージュで具体性があったほうが、カワセミの生態のあぶり出しになると思います。ですから、いまだに中西悟堂や仁部富之助を超える人がいないように思えてならないです。【カワセミの生態基本】(1)全長 17センチメートル(2)体重 27~36グラム(3)卵数 5~7個/回(4)抱卵日数 18~21日(5)育雛日数 23~24日(6)繁殖回数 2~3回/年(7)亜種 9種(8)巣穴 水平に60センチメートル(9)死亡率 80%(テリトリーをみつけるまで)***イギリス独自*********************(a)繁殖期 3月~8月(b)個体数 4000~6000ペア(減少傾向) cf.イタリア・フランス・・・4000~6000ペア アイルランド・・・1300~2100ペア ルクセンブルグ・・・・65~90ペア(C)テリトリー 通常3~5キロメートル(川の場合) cf.Fryさんの本では、テムズ川32Kmで16ペアの記述あり******************************次に、面白いなと思ったのは、数字で具体的に説明されているので、イメージがわきやすいということです。例えば、死亡率がテリトリーを見つけるまで80%という点です。どこから出した数字かよくわからないのですが、あながちいい加減な数字ではないと思います。生まれた雛の1.4羽が生き残る数字で、種の維持にはちょうど良い数字です。それと、縄張りがイギリスの場合、3~5キロメートル。これは、すごいです。よほど健脚な人でないとウォッチングができませんね。ちなみに、粕谷和夫さんが「BIRDER04年7月号」で書いておられますが、多摩川の支流の淺川では約1キロメートルだそうです。我が井の頭公園ですと、これはイギリスのカワセミファンからみたら垂涎の的で、日本の実態を紹介しましたら、飛んでくるかもしれません。さらに、個体数の数字などはどうやって算出したのでしょうか。日本で、何羽カワセミがいるかという数字は、少なくとも私は見たことがありません。第三に、著者の意見が随所に見られる点で、ジェームスさんの「キングフィッシャー」は面白いです。例えば、私が感心したのを以下に掲げておきます。日本の本では、こういうのがないですね。あえて、言えば、山本直幸さんのサイト「翡翠との出会い」に掲載されている「翡翠の魅力~特徴・生態・習性」が我が国を代表するものかもしれません。さすがに、実際の観察にもとづいて記載している点で秀逸です。http://www.ceres.dti.ne.jp/~eisvogel/index1.html【著者の見解例】(1)オスのほうがメスよりも羽毛が輝いているという見解については必ずしもそうとはいいきれない。(2)縄張り争いについては、侵入鳥が若鳥と成鳥とは区別して対応する。 →若鳥に対しては、いじめ中心。 成鳥に対しては、まず、追いかけて追い出す。次に、高い鳴き声(swissoo)で警告。さらに、近くにとまってデイスプレイ(伸びたりちじんだりしたポーズ)と鳴き声で相手をびびらせる。それでも解決がつかない場合は、相手をホールドして叩きのめす(めったにないケースで著者も2年間の観察で1回)。(3)求愛行動は、オスが上の枝にとまりメスが下の枝にとまるのが一般的。(4)カワセミにとって、水質の綺麗な川が不可欠。最後に、fryさんの本もジェームズさんの本も、参考文献は、同じものであることに驚きました。まだ、入手していないですが、次のものです。デビット・ボーグ「The Kingfisher」(1982)S.クランプ「The Birds of Westerm Palearctic第4巻」(1985)おそらく、Fryさんは、狭義のカワセミ以外の研究が多く、この参考文献にプラス・アルファできていないということなのでしょう。これは、ある面では仕方がないと思いますが、この2冊は是非みてみたいなと思います。ちなみに、日本のカワセミ単行本で、参考文献が掲載されていたのは、私が目にしたものでは、唯一、矢野亮さんの「帰ってきたカワセミ」だけでした。これだけでも、残念ながら、日本のカワセミ研究が遅れている証拠だといえるかもしれません。