コミスジの越冬幼虫
今年のニシキハギは例年とは一寸違っている。春から夏にかけて出た葉は、当然もう3週間以上も前に黄葉して完全に落ちているが、夏以降に伸びた枝葉はまだ緑色のままで残っているのである。こんなことは今までになかった様な気がする。どうも秋にキチョウの幼虫が活躍しなかったせいらしい。しかし、その葉も漸く一部が枯れ始めた。 先日、その枝先に枯れ葉の様なものがあるので、その中に何か隠れていないかと思って虫眼鏡代わりのマクロレンズで覗いてみた。すると、枯葉の下に何やら虫らしきもの脚が見える。しかし、何だかよく分からない。もう日没時でかなり暗くなっており、肉眼では良く見えないのである。 撮った写真を拡大表示して、ビックリした。何と、コミスジの幼虫であった。枯葉と思ったのは、幼虫の背中なのであった。ストロボの光を浴びて逃げ出し始めたコミスジの幼虫(終齢)(2008/09/24) 全体を撮った最初の写真を上に示す。頭が伸びている。これは移動態勢に入った形である。 恐らく、写真を撮り始める前は、下の写真の様な格好をしていたのであろう。これが普通の静止状態の姿勢、上の写真は、ストロボの光を散々浴び、身の危険を感じて逃げ始めたところである。静止状態のコミスジ幼虫.次の日に撮影(2008/09/25) コミスジの幼虫は一昨年の秋に紹介している。その幼虫が蛹化し、羽化した成虫も載せているが、今回の幼虫には、一寸別の意味がある。先日紹介したカネタタキやハギオナガヒゲナガアブラムシは、何れ近日中にあの世に行く運命にある。しかし、このコミスジ幼虫はこれから越冬するのである。方向転換するコミスジの幼虫(2008/09/24) 幼虫の体長は15mm程度、以前紹介した老熟幼虫と較べるとかなり小さい。しかし、体の構造を比較すると、これも終齢幼虫の様である。調べてみると、コミスジの越冬態は終齢幼虫とのこと。 下は移動中のコミスジ幼虫を背側から見たものである。何方かと言うと、余り見たことのない写真である。移動中のコミスジの幼虫(2008/09/24) コミスジの幼虫は、御覧のようにかなりキッカイな形をしているが、勿論、基本的な体の作りは、以前紹介したナミアゲハの幼虫と変わるところはない。 下の写真は、移動中のコミスジ幼虫の頭部と胸部である。右の丸い部分が頭で、右下に突き出しているのは触角、頭部の左には3つの胸脚が見える。これらは、それぞれ第1胸節~3胸節に1つずつ付いているので、第1胸節には気門があり(黒で縁取りされた楕円形の部分)、背中の突起の小さいのは第2胸節、一番大きいのは第3胸節にあることが分かる。その左に見える丸い気門は第1腹節の気門である。 6個の単眼は頭部の下側にある。しかし、ブツブツが多すぎて、この倍率ではよく分からない。コミスジ終齢幼虫の頭部と胸部(2008/09/24) 頭部を正面から撮ることは出来なかったが、斜めからの写真(下)を見ると、三角形の前頭、その上側にある狭い副前頭、黒っぽいぼやけた筋のある大きな頭頂が見分けられる。 しかし、随分デコボコしてますな!!斜めから見たコミスジ終齢幼虫の頭部(2008/09/24) 2番目に載せた、静止状態にある幼虫の場合はどうであろうか。この場合は少し分かり難いので、コントラストを少し上げ、また写真に印を付けておいた(下)。露出不足を増感で補っているので、かなり荒れている 数字の1~3は、それぞれ第1胸節(前胸)、第1腹節、第2腹節の気門である。英字のaは触角、胸脚は良く見えないが、bで示したのが第1胸脚(前胸脚)ではないかと思われる。 一つ上の写真と比較してみると、随分無理をして?体を曲げていることが分かる。2番目の写真から頭部胸部を部分拡大.印に付いては本文参照のこと(2008/09/25) さて、この幼虫、これからどうするか。もう植木屋さんも入って庭は整頓されているから、ハギの枝も切らないと一寸みっともない。調べてみると、コミスジの幼虫は、オオムラサキやゴマダラチョウの越冬幼虫と同じで、落葉の中で越冬するとのこと。昨年から今年にかけて紹介したツマグロヒョウモンの越冬幼虫の様に、越冬中に摂食することはない。特にコミスジの場合は、越冬後も摂食せずにそのまま蛹化するらしい。 オオムラサキやゴマダラチョウは、自分から樹を降りて落ち葉の中に入るそうである。しかし、このコミスジは、葉や枝先と一緒に落下することにより地上に降りるのが一般的らしい。それならば、枝先を切って、他の落ち葉と一緒に何処か、風の当たらない日当たりの良い場所にでも置いておくことにしよう。