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カテゴリ:ショートショート
『S氏の幸せ』
S氏は幸せな朝を迎えていた。 ヤフオクで安値で買った旧式のヒューマロイド。 「あなた、朝よ。ごはんの支度ができているわ。」 「ありがとう。」 そう言いながらS氏はエミのおでこにキスをした。 人工知能をもつエミは, ほとんど人間に代わらない能力を持っている。 ヒューマロイドの普及は人間の職場をなくすのでは と危惧されたのは過去のこと。 3D立体ホログラファーは日常の物となり、 いまや、どこのアパートに入居しても 昔懐かしい「藤原紀香」が 映し出される時代となっていた。 部屋の中もその季節を満喫できる環境も映し出される。 「十和田の紅葉」は人気のソフトだ。 気温環境だけではなく、 匂いや想定マイナスイオンも装置で出されている。 S氏はエミをカスタマイズして、 その容姿も好みのものにした。 安物の人工皮膚の樹脂ラバーも 3D投写で肌がつるつるに見える。 旧式なロボットも 外見は人とほとんど変わらない状態に見えた。 ついでに電気がいつ途絶えてもいいように、 自家発電はソーラーでエミ自らエネルギーも注入できる。 S氏の部屋には鉄腕アトム、ガンダム、エヴァンゲリオン、 スターウォーズの人間大のフィギャーがならび、 それぞれが今にも動き出しそうだった。 朝食は二人分テーブルの上に並んでいた。 もちろんエミのはホロスコープなのだが、 幸せのあまりS氏もホロスコープの食事だけで 満足してしてしまうのだ。 「あなた、私のためにも召し上がって。」 と、優しく言われると食べないわけにもいかない。 「愛してるわ、あなた― 気を付けていってらっしゃーい」と言われると その息遣い、仕草も S氏はエミがロボットであることを忘れてしまい、 幸せな気分にひたれるのだった。 仕事から帰り一日の用事をすべて済ませ、 エミとベッドに一緒に入るのも心地よかった。 まるで血の通っているような体温に 人工知能はあわせてくれるのだから。 お休みのキスをすると2人は寝息を立てる。 S氏の家の電気は自動で省力化した。 エミのメモリーチップの分だけを残して。 空調の音も止まり、シーンと静まり返った寝室。 二人寝ていたはずのベッドは今は一人しかいない。 「あなた、ありがとう。 あなたのこと、今でも愛してるわ。」 人類が一人もいなくなって久しい。 新型ヒューマロイドもウィルスに弱く、 旧型で残ったのもエミ一人。 色あせた旧式のヒューマロイドのお腹が膨らんでいた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年11月22日 07時40分57秒
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