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テーマ:詩&物語の或る風景(1047)
カテゴリ:ショートショート
銀河鉄道に乗って各駅停車の旅。 きらめく星座を眺めながら、 僕は麦酒をすすっている。 向かいの席にある星の人が座る。 さっきの駅で乗り込んだんだ。 「おや、あなたは地球からお見えですね」 その人は流暢な日本語で語りかけた。 「お分かりですか?」 「ええ、体内に口から栄養を取り入れてますね、」 「えっ、まぁ…」 僕はずるずるとストローを鳴らして吸っていたのが、 エチケットに触ったかと思い恐縮していた。 「私たちはちがうのですよ。」 「はぁ、」 見たところ普通の人型生物に変わりはない、 ただ春先だと言うのに長く黒いコートを 羽織ってはいるが。 やおらその人はボストンバッグを取り出すと、 カギを空けてカバンを開けた。 ぷーんと草の匂いがした。 中には黒々とした土が入っている。 「あなた方地球では私たちは動かないものと、 思われてるようですが、」 と言いながら、長く黒いコートを窓際にかけた。 そして僕らが靴を脱ぐようにその人も脱いで、 やや茶褐色いろの足を床に置いたボストンバッグに入れる。 「ふー、一息ついたー。」 目が点になっている僕に気を使ってか、 話を続けてくれた。 「いや、これが私たちの栄養吸収の方法なんです、 あ、すいません、たまにこのバッグから糸ミミズや 他の虫たちが出てくることがありますが、 ちゃんと巣に帰らせますからご心配御無用です。 そう、あなた方の地球の話もよく伺っていますよ、 精神感応という手段でいろんな情報が日夜飛び込んできます。 私たちがこうやって根から栄養を取るように、 あなた方は口から栄養を取っていて、 それを胃で消化させていますね。 私たちはすでに土の中で虫やバクテリアが作ってくれた栄養を、 そのまま水と一緒に吸い上げるだけなんです。 あなた方の胃に当たる部分が土と言ったところですね、 ですがあなた方はその土とも上手にやっていないようですね。」 「そうですか、結局、私たちも虫やバクテリアも同じ生物と いうことなんですね、だから虫も住めないような土壌では かえっていい作物が出来ない。 農薬は我々人間も害しましたが、土にもいいことはなかったのですね。」 「だんだん、わかってきましたね。 人間が作ったモノ以外、世の中に無駄なものは何一つないのですよ。」 僕は飲みかけの麦酒を飲むのをすっかり忘れていた。 「あの、よろしかったら、どうですか?」 そう聞かれたのは僕だった。 「靴を脱いではだしの足を土に乗せてみてはいかがですか?」 言われるまま、靴と靴下を脱いでボストンバッグの空いてる土に 両足を置いた。 「ふわーっとして、いい気持ちですね。」 「そうでしょう? この土は最高品ですww。 あなた方のようにいろんな食べ物を食べなくても、 この土一つで事足りるのですよ、水分もほどほどでしたらねww」 僕はこの植物人間型人類の方が、 かえって進化してるんじゃないかと 思い始めていた。 銀河鉄道の汽笛が鳴った。 (終わり) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年04月21日 09時02分28秒
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