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2006.11.21
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カテゴリ:日誌
終末期腎不全患者で透析治療を余儀なくされている患者の増加が止まらない.糖尿病,高血圧などメタボリック症候群とも関係しており,団塊の世代の人にとっては定年退職後の健康問題として無関心ではいられないであろう.慢性腎不全に進展する患者は男性優位であることはよく知られた事実である.女性はホルモンの好影響で慢腎硬化症に至る確率が低いのではないかと推測されている.それなら慢性腎疾患から透析に至る過程を予防するためにエストロゲン製剤を服用してはどうかと考える人がでてくる.しかしエストロゲンを直接投与することは効果よりも有害作用が上まわってしまう.そこでエストロゲンレセプターに作用しながら,人体にとって有用な作用だけを発揮する薬剤,SERMが開発されてきた.骨粗鬆症や乳癌などの治療に応用されている.しかしホルモン類似薬剤は一筋縄では解釈できない副作用が長期服用で明らかになることがあり慎重な使用が望まれる.今回抄読会で紹介した論文には自然発症糖尿病マウスに骨粗鬆症予防薬raloxifeneを与えた場合,腎硬化症への進展が抑制されたという実験結果が書かれている.この事実をそのまま人の糖尿病腎症にも敷衍できるかどうかはさらなる検証を必要とする.実験病理の結果を解釈する場合には,常に他の研究成果も参照しながらpros & consを慎重に判断する必要がある.

Chin M, Isono M, Isshiki K, Araki S, Sugimoto T, Guo B, Sato H, Haneda M, Kashiwagi A, Koya D. Estrogen and raloxifene, a selective estrogen receptor modulator, ameliorate renal damage in db/db mice. Am J Pathol 2005; 166: 1629-1636.【要 約】
エストロゲンが骨,心臓血管病,腎疾患に対して潜在的予防効果を持つとされているが,糖尿病腎症に対する効果は未知である.17β-estradiolとSERM製剤であるraloxifeneが自然発症2型糖尿病マウスdb/dbの腎機能や糸球体病変にどのような影響を及ぼすかを検討した.卵巣摘出db/dbマウスに8週間17β-estradiolを投与した.これによるアルブミン尿の軽減,体重増加の減速,高血糖値の軽減が観察された.糸球体病理ではメサンギウム領域の増加やフィブロネクチンの沈着などが17β-estradiol投与で有意に抑制された.同じ動物を用いてraloxifene (3mg/kg/day)とplaceboを8週間投与した.Raloxifeneは有意にメサンギウム基質の増加やフィブロネクチン沈着を軽減した.しかし17β-estradiolの効果に比較して,体重増加や高血糖には効果は得られなかった.In vitroでの系ではraloxifeneはTGF-β1誘導性のフィブロネクチンの転写やAP-1活性の誘導を阻害した.これらの実験結果から,raloxifeneは糖尿病腎症の治療に有効であることが示唆される.
【研究背景】
女性は慢性腎疾患が終末腎に進展するスピードが遅い.糖尿病についても閉経前女性は同年代の男性より終末腎となるリスクが低い.しかし閉経後は男女とも同等なリスクとなる.人口当たりの糖尿病腎症の男性に多い傾向が明らかである.これらの知見からエストロゲン作用が糖尿病腎症の発生を予防していることが示唆される.実際に実験動物を用いた研究でも片腎摘出ラットや高血圧ラットの腎病変の発生をエストロゲンが抑制する結果が得られている.メサンギウム細胞培養を用いた系でも,エストロゲンは細胞の増殖や膠原線維の合成を抑制する.これらの結果と対照的に,卵巣摘出動物でエストロゲン投与を行うと腎硬化症の発生が増加したとの報告もある.雌の肥満性Zuckerラットでの実験では,エストロゲンが腎病変の進行を加速させたと記されている.大塚Long-Evans徳島肥満ラットを用いた系では,エストロゲンが腎硬化症の発生に寄与していた.これらの矛盾した実験結果からも,エストロゲン補填療法が糖尿病腎症の発症に予防効果がるのかないのか明らかになっていない.多くの臨床研究からエストロゲンの使用は乳癌の発生を助長するなどの有害作用のために忌避されている.これに対してSERMがすべての臨床病期のホルモン感受性乳癌の治療に適応されている.SERMはエストロゲンレセプターに結合しホルモン依存性の遺伝子の転写を変容させる薬の総称である.Raloxifene hydrochloride (RLX)はベンゾチオフェン構造を有するSERMで閉経後の女性の骨粗鬆症の予防と治療に承認されたSERMである.SERMに属する薬剤は特定の組織でエストロゲン効果を発揮する場合と抗エストロゲン作用を発揮する場合がある.RLXは骨粗鬆症に対する効果に加えて,心臓血管系にも好ましい影響を与えることが知られている.またRLXはin vitroでメサンギウム細胞の膠原線維合成能を抑制するとの報告がある.このことから腎疾患の治療にも有用なのではないかと示唆される.この研究では2型糖尿病の実験モデルであるdb/dbマウスを用いて糸球体病変と腎機能に対する17β-estradiolとRLXの効果を明らかにした.





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Last updated  2006.11.21 20:55:34
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